浜口倫太郎『たまゆら堂書店の本好き姉妹』

浜口倫太郎『たまゆら堂書店の本好き姉妹』

理想の書店を求めて


「書店を舞台にした小説を書いてみませんか」

 編集者にそう提案されて瞬時のうちに頭をよぎったのが、『伊藤清彦』と『正和堂書店』という2つの存在だった。

 岩手の盛岡に、『さわや書店』という書店がある。出版関係者ならば誰もが知っている有名な書店だ。

 伊藤さんは、そのさわや書店本店の店長だった。

 これは売れる、これは面白い。伊藤さんの目利きで仕掛けた本は次々とベストセラーになった。さわや書店が一躍有名になったのは、伊藤さんの功績が大きい。伊藤さんは、『伝説の書店員』と呼ばれていた。

 僕は10年ほど前、『廃校先生』という小説を出版した。廃校が決定した小学校の1年間を描いた物語だ。手応えがあったし、自信作だったのだが、まるで評判にならなかった。

 落ち込んでいると、「廃校先生は今年度のナンバーワンだ」と伊藤さんがSNSで絶賛してくれた。伝説の書店員がそういってくれたのだからと自信を取り戻し、それ以降伊藤さんとの交流が始まった。僕が小説を出版するたびに感想をくださった。伊藤さんは、僕の作家人生を支えてくれた一人だ。

 一度伊藤さんに会いに、岩手の図書館に行った。その頃伊藤さんは書店員を辞めて、図書館に勤められていた。

「もう書店員が本を発掘してベストセラーにできる時代は二度と来ません」と、伊藤さんがぼそりとつぶやかれた。自身が大切にしていたものが消えていく淡い悲しみが、その沈んだ横顔ににじんでいた。
 その後、伊藤さんの弟子ともいえるさわや書店の書店員達も店を離れた。そしてしばらくすると、伊藤さんは亡くなられた。まるで、自分の役目はもう終わったとでもいわんばかりに。

 それ以降も書店はどんどんと減少し、活気を失っていった。伊藤さんの予言通りの未来がそこにはあった。

 そんな折、ある書店の存在を知った。

 それが、大阪の『正和堂書店』だった。昔懐かしい街の書店という感じで、今どき珍しい家族経営だ。オリジナルのブックカバーやSNSの施策で注目を集めている。

 オーナーの小西康裕さんは、消えゆく書店の火を消さないために、SNSなどを駆使した現代的な武器で奮闘している。

 伊藤さんがあきらめた未来の書店像が、正和堂書店にある気がした。

 今、書店を舞台にした小説を描くのならば、正和堂書店のような書店にしたい。そこで小西さんに取材をさせてもらった。

 小西さんは弟さんも書店を運営されているので、本作のたまゆら堂では、姉妹で店を運営することにした。

 伊藤さんのことも物語の中で描きたかった。そこでかつて伊藤さんの弟子的存在だった、元さわや書店の松本大介さんにも取材をさせてもらい、伊藤さんのエピソードを聞かせていただいた。伊藤さんはもちろん、小西さんと松本さんの2人にも、この場を借りて心より感謝を申し上げたい。

 理想の書店とは何か? すべての書店の希望となる書店とは、一体どんな店だろう? そんな疑問を胸に抱きながら、この小説を紡いだ。自分だったら絶対たまゆら堂の常連になりたい。そう思えるものに仕上がった。

 みなさんにとってもこのたまゆら堂が、理想の書店となれば幸いです。

  


浜口倫太郎(はまぐち・りんたろう)
1979年奈良県生まれ。漫才作家、放送作家を経て『アゲイン』で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞しデビュー。著書に『シンマイ!』『廃校先生』『お父さんはユーチューバー』『いつも二人で』『1分小説』「天空遊園地まほろば」シリーズなど多数。

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たまゆら堂書店の本好き姉妹

『たまゆら堂書店の本好き姉妹』
著/浜口倫太郎

◎編集者コラム◎ 『見知らぬイタリアを探して』内田洋子
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