今月のイチオシ本【警察小説】
『ブックキーパー 脳男』
首藤瓜於
『脳男』シリーズ待望の新作。といっても、今一つピンとこない方もいるかも。それもそのはず、前作から何と一四年ぶりの第三作なのである。
『脳男』は二〇〇〇年の第四六回江戸川乱歩賞受賞作で、愛宕市という中部地方の架空の都会を舞台にした話。市警の茶屋警部は街を震撼させている爆弾魔を逮捕しにアジトへ乗り込むが、つかまえたのは犯人と争っていた正体不明の男。それが表題の脳男こと鈴木一郎だ。物語は爆破事件の捜査から脳男の謎をめぐるサスペンスへと転じていく。
七年後に刊行された第二作『指し手の顔 脳男Ⅱ』はまたしても愛宕市で凶悪事件が連続、その裏に鈴木一郎ありと見た、茶屋と鈴木担当の精神科医・鷲谷真梨子が真相を追求する。
そしてそれから一四年、シリーズ第三作の本書登場と相なるわけだ。物語の中では『指し手の顔』の翌年の出来事という設定だが、出だしは愛宕市ではなく警視庁から始まる。異常犯罪を扱う捜査一課与件記録統計分析係第二分室の桜端通はデータベースを製作中、一見何のつながりもないがどの被害者も拷問を受けていたという殺人事件に気付き、室長の鵜飼縣共々捜査を進め、やがて愛宕市というキーワードを見出す。
その頃愛宕市では大財閥の氷室家で当主の賢一郎が拷問を受けたのち惨殺される事件が起きていた。現場に駆け付けた茶屋はまたもや鈴木の関与を疑うが、同じ疑問を抱いた鵜飼も現場に現れる。当の鈴木は鞍掛署に追われる老人に何故か救いの手を差し伸べていたが……。
『指し手の顔』では鈴木がなかなか姿を現さずやきもきさせられた。今回もそれは同様であるが、茶屋や、実は警察庁のエリート警視にして奇抜なキャラの持ち主でもある鵜飼の活躍で飽きさせない。中盤からは猟奇殺人者の暗躍も描き出されていくが、数々の事件を貫く謎は終盤まで明かされない。全篇捜査小説としての面白さにあふれているが、事件の真相にはドギモを抜かれること必至だ。
鈴木と愛宕市はこれからどうなるのか。さらなる新展開に期待!
(文/香山二三郎)
〈「STORY BOX」2021年6月号掲載〉