今月のイチオシ本【警察小説】

『サンズイ』
笹本稜平
光文社

 警察の内部には様々な隠語があって、中にはガサイレ(家宅捜索)やマルガイ(被害者)のように一般化している言葉もある。本書の表題もそのひとつで、サンズイは汚職絡みの政治案件を指す。

 主人公の園崎省吾は警視庁捜査二課第四知能犯第三係──「ナンバー」と呼ばれる花形部署で、そのサンズイ事案を担当する警部補。今回彼は都下・東秋生市を舞台にした与党の大物議員・桑原勇のあっせん収賄罪もしくはあっせん利得罪の容疑で、公設第一秘書の大久保俊治を取り調べていた。大久保は地元・千葉での人望はなかったが、警察や地検の事情聴取にも慣れた海千山千の強者で、園崎とも平然と渡り合った。

 同日夜、千葉県警生活安全部の親友・山下正司から耳寄りな情報が。大久保は準強制わいせつで捜査対象になったり、ストーカー規制法で禁止命令を受けた過去があるというのだ。そんな矢先、園崎の妻・紗子から自宅の前に不審車が駐まっていると連絡が入る。園崎は大久保の嫌がらせを疑うが、翌日その大久保から電話があり、自分を捜査線上から外せば重大な情報を提供するという。

 不審車のタイヤ痕から大久保のストーカー疑惑が強まる一方、検察の圧力で東秋生の事件の捜査に幕が引かれることに。その頃、園崎は大久保との会見に臨むが、二度もすっぽかされたあげく、妻子が交通事故にあったという知らせが。

 園崎の父は代議士秘書だったが、私文書変造容疑で有罪、事務所もクビになり自殺していた。そのためサンズイ事案にはことのほか厳しい熱血漢だが、大久保の奸計にハマり次第に追い詰められていく。

 ポイントはそこに警察の上層部も絡んでいるらしいこと。園崎は孤立無援ではなく、親友の山下を始め上司や相棒など心強い味方も付いている。読みどころも、彼を陥れようとする一派と守ろうとする一派の熾烈な対立劇にあり。元組織犯罪対策部の園崎によれば、政治家の世界と極道業界の体質は実に似通っているとのことだが、警察の世界もまたしかり。本書は硬派の捜査二課ものであるとともに、生々しい警察内部抗争劇でもある。

(文/香山二三郎)
〈「STORY BOX」2019年12月号掲載〉
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