『寺山修司からの手紙』
【今を読み解くSEVEN’S LIBRARY】話題の著者に訊きました!
山田太一さん
TAICHI YAMADA
1934年生まれ。早稲田大学卒業後、松竹で木下惠介監督のもと助監督を務める。’65年、脚本家として独立。『岸辺のアルバム』『早春スケッチブック』『ふぞろいの林檎たち』など数々の名作を手掛け、向田邦子賞、菊池寛賞などを受賞。近著に『夕暮れの時間に』など。
彼もぼくもあの頃、
互いに会うのを切望
していた。一生懸命
本を読んで、話したい
ことが山ほどあったので
今から60年前、
ともに青春時代を
過ごした2人が
交わした未発表
書簡が胸を熱くする
『寺山修司からの手紙』
岩波書店 1836円
1954年、寺山修司と山田太一さんは早稲田大学教育学部国語国文学科に入学、同級生として出会った。その翌年、’55年から’58年にかけて2人が交わした若かりし頃の貴重な手紙が収録されている。寺山はネフローゼにより長期入院を余儀なくされ、会えない時間を惜しむように手紙を書き連ねた。ほとばしる才能と、互いに相手を大切に思う気持ちが伝わってくる。山田さんは編者を務め、新たに「手紙のころ」というエッセイを寄せている。
寺山修司と山田太一。のちに文学や演劇、テレビの世界で大きな足跡をのこす2人が、ほぼ60年前、若き日に交わした往復書簡が出版された。互いを知ったのは昭和29年、早稲田大学のキャンパスである。
「何人かで雑談しているとき、自分に光を当てようと、ぼくが小野十三郎の詩を引用したんです。誰も知らないだろうと思ったら、寺山さんが次の行をすっと口にして。東京は油断がならないな、と思いました」
寺山に声をかけられ親しいつきあいが始まるが、無二の友はネフローゼで長期入院を余儀なくされる。
「病気になってこれまで通り会えないというのがショックだったんですね。ほかの人としゃべるよりずっと面白いし、話が通じるのは彼だけだったから。それなら病室に通っちゃえ、と(笑い)」
寺山の母から見舞いが病身に障ると叱られると、手紙を書いた。病室に顔を出して二言三言話して手紙を置き、また翌日、手紙を携え顔を出す。そんな日々が始まった。
この本に初めて収録される当時の寺山の日記には、「山田」の2文字が頻出し、親友の訪問を心待ちにする様子が痛いほど伝わってくる。
「メモのことは今回、初めて知って、こんなに書いてくれていたのかとびっくりしました。ぼくも、彼に会うのを切望していましたしね。2人とも一生懸命本を読んで、話したいことが山ほどあったので」
相手が好きな女性を、自分も好きになるという経験もしている。
「初めは違う人を好きになるんですけど、友達って、仲よくなると、相手が好きな人がよく見えてくるんです。向こうもそうで、もう交換しようかって。だけど交換できるほど相手にしてもらえてないから、そう決めても何の進展もない(笑い)」
長い休学ののち、寺山は退学。歌人やシナリオ作家としての活動を始める。山田さんは卒業して松竹に入り、寺山が脚本を手掛けた映画の現場でばったり会ったこともある。
二手に分かれた道が再び交錯したのは、寺山が亡くなる少し前のことだ。体調が悪かったのに、山田さんのお祝いの席に出席して祝辞を述べたり、「きみの家に行きたい」と言って、ひとりで電車に乗って訪ねてきたりもした。
「駅まで迎えに行くと、もう誰もいなくなった階段を、彼が一歩一歩降りてくる。その場面をはっきり覚えています。家に来ると、すぐ『本棚を見せろ』。地下の書庫で本を手に取り、『懐かしいね』と言っていた。中年の男2人、学生みたいな会話です。あのとき別れの儀式みたいなものを持てたのが不思議で、何かの力が働いていたように思えるんです」
素顔を知るための
SEVEN’S Question-2
Q1 最近読んで面白かった本は?
年をとったせいか、新刊よりも古い本のいい文章を読み返したい気持ちになっていて、最近では宮本常一の「土佐源氏」(『忘れられた日本人』)を読んで、ああ、いいなあと思いました。
Q2 健康のためにやっていることは?
ほぼ毎日、夕方、1時間ぐらい歩いています。階段があれば「恵み」だと思って上ります。うちは高台の中腹なので、どの道を行っても坂があるんで、平らな道より効果があると信じて(笑い)、歩いています。
Q3 最近手紙を書きましたか?
葉書をいっぱい買っておいて、人から手紙をもらうと返事ぐらいは書きます。他に義理を果たす能力がないので。それほど言うことがないときは絵葉書。
Q4 1日のスケジュールは?
ドラマを書いているときは毎日机に向かいます。朝、6時半から7時には起きて、夜は11時には眠くなる。昼間も、眠くなると短い昼寝をします。女房と生活時間帯が違うので、朝飯は自分で。昼も、作るというほどではないけど、焼きそばやうどんぐらいは作って食べています。
Q5 戻りたい時代はありますか?
そのつど忘れがたい思いはあるけど、わざわざ戻るのはしんどいな(笑い)。
(取材・文/佐久間文子)
(撮影/田中麻以)
(女性セブン2015年12月24日号より)
初出:P+D MAGAZINE(2016/01/08)