湯山玲子 二村ヒトシ著『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』が真摯に語る現代ー香山リカが解説!
時代とともに変わりゆく“性意識”。生身のセックスは面倒くさい、と思う人が増えているーー真摯に大胆に、いまどきのセックス事情を語り尽くした一冊を、精神科医の香山リカが紹介します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
香山リカ【精神科医】
肉食系シニア男子が幸福な老後を送るために必要なこと
日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない
湯山玲子 二村ヒトシ 著
幻冬舎
1500円+税
装丁/川名 潤(Prigraphics)
衝撃的なタイトルだ。でも、とても深い本。結論から記そう。「生身のセックスは『めんどくさーい』」と思う人が増え、たまにそうじゃない男女がいても多くは「侮辱」や「自虐」のセックスしかできない。「尊敬と愛情」が含まれるセックスは今や「もの凄い贅沢品」になりつつある、というのが、人間に精通した女性作家と男性AV監督が見た“いまどきのセックス事情”。
「いやいや、それは草食化、オタク化してる若いやつらの話だろう。なぜならオレは…」と反論がある肉食系ミドル~シニア男子(?)にこそ、ぜひ本書を一読してほしい。そこにはギラギラ世代の男性たちへのキビシイ言葉も並んでいる。「日本の男性の多くは、そもそも感情がひからびてしまっている」「男は50になっても成熟してなくて、たいていはつまらなくなってくるね」「バカな男は年をくったほうが自慢がひどくなる」。最初は笑いながら読んでいても、次第に「もしかしてこれオレのこと?」と顔が青ざめてくるのではないだろうか。
もちろん、本書には脅しの文句ばかりが並ぶわけではない。女性もきちんと自立して依存体質を卒業し、その上で男女がお互いを尊重し感情を解放し、「共に生きる」ためのセックスをする。ふたりの縦横無尽なおしゃべりを読んでいると、その可能性の追求をやめるのはもったいないな、という気になってくる。
とはいえ、今さらそんな崇高な境地には達せそうにないという男性には、せめて本書から次の言葉を贈りたい。
「既婚者は奥さんと、もう一回愛し合えるのかどうか向き合ってみて、ダメだったら別れた方がいい。向き合うというのは自分の都合だけではなく、奥さんの持っている本当のニーズに応えようとすること。」
どうだろう。これくらいできるのではないか。いや、これがいちばんむずかしい、と言っている男は、自分には幸福な老後は来ないと思ったほうがよいだろう。
(週刊ポスト2016年6.24号より)
初出:P+D MAGAZINE(2016/07/07)