【愛とは見返りを求めないこと】本好き美女が、川端康成の『遠い旅・川のある下町の話』を読む。|文芸女子#5

本が大好きな知的美女をピックアップする、「文芸女子」のコーナー。現役女子大生に昭和文芸を読んでもらい、平成生まれの彼女たちが感じるその魅力を、若さみなぎる感性で語って頂きます!

国際派!上海・復旦大学生のはなえさんをCLOSE UP!

はなえさんプロフィール写真

みなさん、はじめまして。はなえです。

福岡県出身、12月10日生まれの21歳です。血液型はB型。
上海にある、復旦大学の情報コミュニケーション学科で学んでいます。日本と中国を行き来する生活なんです。
趣味は、ゴルフとピアノ、そして欠かせないのは、読書。多いときで、1カ月に10冊くらいは読みます。電子書籍を愛用しているので、持ち運びがとても便利。手軽に読めてしまうところが気に入っています。海外暮らしなので、手放せません。

―最近読んで面白かった本はどんな本ですか?

『人工知能は人間を超えられるか』。
人工知能は、これからの人間の未来にとって、不可欠な存在になっていくと思うんです。果たして、人工知能は、人間に希望をもたらすのか、あるいは大いなる危機なのか…。とても興味がありますね。

―好きな作家と作品について教えてください。

エーリッヒ・フロムの『愛するということ』。愛について考えるのに、何度も読んでいる愛読書です。

―読みたい本をどのようにして選んでいますか?

完全にフィーリングで選んでいます。
ただ、私が興味をそそられる本は、ジャンルを問わず、真実や本質をついている本です。その中でも、歴史ものは特に好き。歴史は、真実かどうかはわからないですよね?なので、教科書に載っているような歴史を扱った本より、個人が色々な観点から歴史の真実を追究したものに興味があるんです。特に、フランス革命、アメリカ独立宣言、ロシア革命に関する本は、かなり読んでいます。

―小説だとどのようなものに興味がありますか?
小説も同じく、リアルなものに惹かれます。人間の本質の美しさ、汚さ、ずるさ、脆さなどを描写している作品に、人間味を感じ、引き込まれてしまいますね。

ーインタビューより


国際派で、読書が大好きなはなえさん。
将来はどんなグローバルな活躍を見せてくれるのでしょうか。目下、学業に懸命に打ち込んでいる模様で、読書量は増加の一途だそうです。勉学に対する真面目な姿勢が、とても魅力的ですね。

そんなはなえさんが、P+D BOOKSより発売中の、川端康成『遠い旅・川のある下町の話』を読んで、感想文を書いてくれました。

『愛するということ』が愛読書だというはなえさんならではの、愛についての深い考察と、感受性に溢れた文章を、ぜひ読んでみてください。
はなえさんの魅力とともに、物語の情感が沁みるように伝わってきますよ。

遠い旅・川のある下町の話を読むはなえさん

川端康成『遠い旅・川のある下町の話』を読んで

恋愛と愛とは全く違うものですね。

恋愛は相手に見返りを求める。愛は相手に見返りを求めないのだと。

この「遠い旅」という作品テーマは「愛のかたち」だとわたしは思いました。

さつきというヒロインを中心に身の周りの人々が繰り広げられるいろんな「愛のかたち」のお話。さつきはある時、さつきの母・美也子の不倫に気づく。さつきは自分の母の不倫に対し心の歯がゆさ、それを自分の心に秘めている心苦しさを抱いてしまいます。それをきっかけに複雑な人間関係が広がり、いろんな人々にとりまかれる中、さつき自身も恋に堕ちました。

この話に登場するさつきの母・美也子の不倫相手、そしてさつきに恋こがれる雅夫という人物は恋する相手にとても異常な執着心をあらわします。両者とも、恋する相手に「愛している」と語る。雅夫は、さつきと両思いである研一という存在がいると知りながら、それでも自分を受け入れてほしいがために自分勝手な行動をします。母の不倫相手・敏高も家庭が大事である母の拒絶を受け入れず、関係を保とうとするために行う行動はとても異常でした。

恋愛はときに、欲望にかられて何をするかわかりません。そういった衝動にかられるのは、人間の性であるし仕方ないかもしれません。しかし、そこにもっと深い愛があるとしたら、理性をもって、自分よりも相手の幸せを願うものではないかと思います。

結局、敏高も雅夫も心の底から、相手を愛していないのではないでしょうか。

それに対して研一がさつきに対する思いは「つつましい」とよく語っていました。きっと、これこそが愛することなのではないのでしょうか。

愛するというのは、相手の幸せを思うがゆえに、奥ゆかしく、高貴で、美しいものなのだろうと。

確かに愛は多様です。しかし世の中でどれだけのカップルと夫婦が心の底から互いを愛しているというのだろうか。そして自分自身も人をちゃんと愛せているのだろうか。とても疑問に思います。

そして、あとに続く「川のある下町の話」という作品のテーマは、「死」と「愛」だと感じました。

戦後の混沌とした中の、死が今よりもずっと身近な問題だった頃の話。それなのに、登場人物の内秘めたるものは、今よりもとても清く、美しく、誠実な心を持っています。それは、「死」がとても近くにあるからこそ、大切ななにかにより一層気付かされるのではないかと。そして、混乱した世の中と対比するように登場人物も美女と美男子が多い。

貧乏で身寄りのない少女・ふさ子は、唯一の生きがいであった愛する弟を病で失ってしまいます。しかし、その弟をきっかけに、義三という男性と出会い、恋に堕ちました。幸せな時間もつかの間、ふさ子と境遇が似ている、ふさ子を愛してやまない達っちゃんも不意な事故で死んでしまいます。そのあと、ようやく義三が「二度の死」で精神を病んでしまったふさ子を救いに会いに行くのですが…

親もなく、弟も失い、大切な人も失ってしまうふさ子は読んでいて不憫でなりませんでした。しかし、最後までも作者が描写するふさ子の炎のような力強い美しい目は強烈に「愛」を求めているような印象をわたしの脳裏に残しました。

作者・川端康成も幼少期に親、兄弟を失い、大好きな祖母、そして祖父とつぎつぎと肉親を失っています。「死」への恐怖、「愛」への渴望。そういった生きるので精一杯であった自分の幼少期とどこか照らし合わせているようだ、と感じるのは、わたしの気のせいでしょうか。

川端康成の両作品は、現代のわたしたちにも考えさせられる、とても人間味あふれた作品です。


遠い旅・川のある下町の話を読むはなえさん

文・はなえ

おわりに

はなえさんの感想文はいかがでしたか?
愛について深く考えて、作品のテーマ性について、熟考した考察を寄せてくれたはなえさん。
P+D MAGAZINE編集部では、文芸女子・はなえさんに読んでみてほしい作品のリクエストを絶賛受付中!
お問い合わせまでお寄せください。お待ちしています!

今回はなえさんが読んだ、「遠い旅・川のある下町の話」はP+DBOOKSで絶賛発売中です。
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初出:P+D MAGAZINE(2016/07/28)

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