【新連載】池上彰・総理の秘密<1>

フィリピンのドゥテルテ大統領、アメリカでトランプ大統領が誕生するなど、世界のトップリーダーに注目が集まっている。日本でも改憲論議などを通じて、安倍首相のリーダーシップが問われている。
そこで、今回、日本の最高権力者、総理大臣について、知ってそうで知らないあれこれを、人気ジャーナリスト・池上彰がわかりやすく解説。
総理と大統領はどこが違う? 総理の給料は? 内閣の家紋がある!? 内閣情報調査室とか官房機密費って実際何なの? などなど、全30回に渡り、緊急連載を開始。その第1回目は……。

総理と首相の違いは?

総理と呼んだり、首相と呼んだり。両方の呼び方がされていますね。どんな違いがあるのでしょうか。これはよく聞かれる質問なのです。

一言ひとことで言えば、総理とは略称であり、首相は通称なのです。法律上は、内閣総理大臣であり、国会では慣例として総理と呼ばれています。 国会中継を見てください。与野党よやとう議員とも、「安倍総理」と呼びかけるシーンは見かけますが、「安倍首相」と呼びかけることはないのです。

首相は法律用語ではないからです。あくまで通称として使われているのです。「しょう」とは、中国で君主くんしゅを助ける役割の人のことを指します。そこで、大臣の通称としても使われます。たとえば財務大臣は財務相というように。首相は、そうした大臣の中の首席という意味です。
日本のテレビや新聞では、日本に関しては総理と呼んだり、首相と呼んだり、いろいろですが、外国に関しては首相と呼ぶことで統一されています。

たとえばイギリスだと、「キャメロン首相」と表記しますが、「キャメロン総理」とは言いません。実際には同じ立場なのですが、日本と区別するためです。
同じように、日本では「国会」と呼びますが、外国に関しては「議会」と区別して呼んでいます。たとえば「アメリカの連邦議会」という表記がおなじみです。

ちなみに、総理大臣を辞めた人に対しても、後輩議員や記者たちは、「○○総理」と呼びます。たとえば「中曽根なかそね総理」と呼びかけるのです。これは、政治のトップに立った人に対する敬意のあらわれです。 アメリカの大統領が大統領退陣後も「ミスター・プレジデント」と呼ばれ続けるのも、同じことです。

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官邸で記者会見する安倍晋三総理
2016年(平成28)6月1日、通常国会閉会
後の記者会見。消費税引き上げの延期、翌
月の参院選について質問が寄せられた。

池上彰 プロフィール

いけがみ あきら

ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか!現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。

(『池上彰と学ぶ日本の総理1』小学館 より)

初出:P+D MAGAZINE(2016/12/02)

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