池上彰・総理の秘密<29>
政党の党首同士が議論をする、党首討論。政治家間での討論を活発にし、官僚主導の政治を打破しようという目的のもとに行われています。誰がこの党首討論の生みの親なのかご存知ですか? 国会を活性化させる手段として取り入れられており、現在も続いていますが、過去にはどのようなエピソードがあったのでしょうか? 池上彰が詳しく解説します。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラムです。
党首討論
総理大臣には、言葉を武器にして国民を説得したり、鼓舞したりする能力が求められます。と同時に、他党の議員との討論にも負けない力が求められます。いまの総理の能力やいかに。それを判断できる場が党首討論です。
国会開会中に、原則として週1回、衆参両院の「国家基本政策委員会」の合同審査会という形式をとって、総理と野党党首による討論が行なわれます。
この党首討論の生みの親は小沢一郎。モデルはイギリス議会の「クエスチョンタイム」です。
イギリス議会では、与野党の党首(与党は首相)が向かい合い、政策に関して激しい議論の応酬を繰り広げます。全知全能を賭けた戦いの様相を呈し、火の出るような言論戦の様子を堪能できます。
小沢一郎は、これこそ国会を活性化する手段になると考え、自民党幹事長の時代から提唱していました。その結果、1999年(平成11)7月に「国会審議活性化法」が成立し、その年の11月から党首討論が始まりました。
最初の討論は当時の自民党・小渕恵三総理に対して、民主党の鳩山由紀夫代表。鳩山代表の最初の質問は、「総理は朝何を召し上がったでしょうか?」 政治家としての能力が、国民に明らかになった瞬間でした。
総理と党首討論できる野党は、衆議院または参議院で10人以上の議員がいることが条件で、小党の党首は参加できません。
民主党野田佳彦内閣だった2012年(平成24)4月、みんなの党代表の渡辺喜美が、自民党の持ち時間を譲ってもらって討論に参加しましたが、民主党を批判するついでに自民党も批判したため、自民党を激怒させる顚末になりました。
自民党の谷垣禎一総裁は、総理を追及する仕方が微温的だと党内で批判されるなど、敵は総理だけではないようです。
初の党首討論 衆院予算委員会で小渕総理(右前列中央)に質問する鳩山民主党代表(左)。1999年11月10日撮影。党首討論は当初は衆参両院の予算委員会で行なわれた。写真/時事通信社
池上彰 プロフイール
いけがみ・あきら
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。
(『池上彰と学ぶ日本の総理29』小学館より)
初出:P+D MAGAZINE(2017/06/16)