池上彰・総理の秘密<30>

総理についてのコラムも、最終回。そこで今回は、日本の総理の資質について、考察してみましょう。安倍政権以前、数多くの交代をしてきた日本の総理。それはいったいどんなところに問題があるのでしょうか? 池上彰が、独自の視点で鋭く読み解きます。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラム。

総理を”育てる”ために

総理大臣についてのコラムも、30回目の今回が最後です。そこで今回は、総理の資質について考えます。  

最近の日本の総理大臣は、毎年のように交代してきました。それはなぜか。総理個人の資質の問題なのか、それとも日本の政治のシステムに問題があるのか。おそらく、その両方に問題があるのでしょう。  

些細ささいな問題を大きく書きたてるマスコミ。党利党略に走って国民や国家全体のことを考えない政党…等々。  

しかし一番の問題は、政治のトップにふさわしい人材を育てるシステムが、日本に欠如しているように思えてならないのです。  

たとえばアメリカは、民主党と共和党が、大統領候補を選ぶまでに長い時間をかけています。党の候補者になるためには、各州の予備選挙で支持を訴え、運動員を集め、政治資金を獲得しなければなりません。その過程でマスコミは、候補者の政治理念と過去の行動を検証し、ときには個人的スキャンダルをあばき立てます。そうした試練に耐えた人物だけが、大統領選挙の候補者になれるのです。1年以上をかけ、アメリカは、大統領候補を育てていると言ってもいいでしょう。  

イギリスでは、保守党、労働党とも、新人を育成するために、前途有望な若者は、わざと党の基盤の弱い選挙区から立候補させ、負けっぷりを見ます。そこで善戦すると、次には絶対に勝てる選挙区に配置換え。選挙運動に時間を割かずに、政策の勉強に専念させます。こうして、政策通の首相候補を育成していくのです。野党の党首になりますと、議会のクエスチョンタイム(党首討論)で、首相と激しい討論を展開。ここで、次の首相が務まるだけの能力をみがきます。  

日本にも、そうした総理を〝育てる〟仕組みが必要なのです。

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第44代オバマ大統領 アメリカの大統領選挙は4年ごとに行なわれ、予備選挙・党員集会をへて党公認の大統領候補が選出され、11月の本選挙へ駒を進める。写真は、2012年5月7日の演説会で支持を訴えるオバマ大統領とミシェル夫人。写真/共同通信社

池上彰 プロフイール

いけがみ・あきら

ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。

(『池上彰と学ぶ日本の総理30』小学館より)

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初出:P+D MAGAZINE(2017/06/23)

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