【著者インタビュー】大沢在昌『暗約領域 新宿鮫XI』/30年目を迎えた警察小説の金字塔!
1990年刊の『新宿鮫』から約30年。ヤミ民泊、MDMA、仮想通貨、謎の国際犯罪集団の台頭など、複雑さを増す現代の犯罪シーンを活写する、大人気警察小説シリーズ最新作を紹介します。
【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】
警察小説の金字塔シリーズが8年ぶりに帰ってきた! 新たな上司と相棒と共に
ヤツが悪に喰らいつく!
『暗約領域 新宿鮫XI』
1800円+税
光文社
装丁/泉沢光雄
大沢在昌
●おおさわ・ありまさ 1956年名古屋市生まれ。慶應義塾大学法学部中退。79年「感傷の街角」で小説推理新人賞を受賞しデビュー。91年『新宿鮫』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞。94年『無間人形 新宿鮫4』で直木賞。04年『パンドラ・アイランド』で柴田錬三郎賞。10年日本ミステリー文学大賞。14年『海と月の迷路』で吉川英治文学賞。01年『心では重すぎる』、02年『闇先案内人』、06年『狼花 新宿鮫9』で日本冒険小説協会大賞など受賞・著書多数。
筋や正義は人それぞれ。その衝突が物語を生む以上どんな役にも存在理由はある
鮫が、帰ってきた。
前作『絆回廊』から8年ごしの復活。90年刊の『新宿鮫』からは約30年目となる。
「鮫島は初登場の時が35歳だから、ゆっくり進む“サザエさん”みたいな感じかな(笑い)」
そうした時差(?)をさし置いても、新宿署生活安全課の万年警部・鮫島には、大沢在昌氏の言うところの「現実の1歩先」の事件が似合う。最新作『暗約領域』でも、ヤミ民泊、MDMA、仮想通貨、謎の国際犯罪集団の台頭など、叩けば叩くほど地下に潜り、複雑さを増す現代の犯罪シーンを活写し、その只中で再び孤独を強いられた一匹狼の再生を描く。
そう。本作は唯一の味方だった生安課長〈桃井〉が前作で殉職し、恋人〈晶〉とも別れた鮫島が、新たな上司と相棒を得る再始動の章でもあった。その上司の名は〈阿坂景子〉―シリーズ初の女性上司である。
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「元々桃井の後任は女性にするつもりでいたし、前作の終わり方が終わり方だけに、もっと早く続きを書ければよかったんですけどね。『もしやこれで完結?』という声も実際多かったから。
確かにそう読めなくもないけど、失意の底にあってなお現場に立ち続けてこそ鮫島だし、“男の美学”を声高に語るのだけがハードボイルドじゃないから。むしろそいつが何を背負い、何を堪えてるかが多くは語らずとも透けて見えたり、言葉より行動で見せる
発端は〈KSJマンション〉というヤミ民泊の一室がシャブの仕分けに使われているという密告だった。早速鑑識係の〈藪〉とカメラを設置し、監視を始めた鮫島は、その上階で宿泊客らしき男が射殺される現場を目撃してしまうのだ。
やがて被害者は予約名簿から〈
鮫島は矢崎の将来に傷がつくのを恐れ、かつて桃井や自分に殺し屋を差し向けた〈
現実にあってもおかしくない話
「阿坂の造形には最も力を入れたかもしれませんね。妙に女っぽい上司も違うし、何か男にはない強さや
特に原理原則にこだわる阿坂が、警察ほど厭らしい嫉妬の世界はない、そこで私は生き延びてきたんだと啖呵を切るシーン、あれこそ書きたかったんです。もちろん鮫島にすれば一筋縄でいかない相手だけど、彼女は彼女なりのやり方で組織と戦ってきたわけです。大切なのは鮫島と阿坂では
東大出の切れ者で、鮫島とは妙な相性のよさを感じさせる浜川。タイを拠点に幅広くビジネスを手がけ、日本へは中国残留孤児二世三世の互助会から派生した〈
「当初は敵役だった香田が、〈思い通りにならないと、すぐ顔にでる〉〈お前はきっと、勉強のできた小学生の頃から中身がかわってない〉と鮫島にイジられたり、今回はイイ味出しています。香田には香田、永昌には永昌の筋や正義があって、その衝突が物語を生む以上、俺はどんな端役であっても存在理由はあると思う。そして出した以上は全員に決着をつけさせたいんです」
鮫島はその後、
「荷物の中身や公安の動きも含め、これは全部フィクション。でも全部
〈国とは、人間の集まりなのか。人間の容れものなのか〉とある。その答え一つでも選択や行動が分かれる世界にあって、新生鮫島の闘いはまだ始まったばかりなのだ。
●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光
(週刊ポスト 2019年12.20/27号より)
初出:P+D MAGAZINE(2020/05/23)