【「清志まれ」って誰?】ペンネームから当てろ! あの作家の“別名義”クイズ

著名な小説家や文化人のなかには、別ジャンルの作品を発表する際、複数の“ペンネーム”を使い分ける人がいます。今回は、海外の作家から日本の現代作家まで、作家の知られざる“別名義”を4択のクイズにしてみました。果たして、あなたは何問正解できますか?

小説を読んでいて、「あれ? この作家、知らない人なのに、前にも文章を読んだことがある気がする……」と感じたことはありませんか? そんなとき、作者の名前を調べてみて、その正体が著名な小説家や文化人であったことに気づく──という経験をしたことがある方は少なくないかもしれません。

作家のなかには、作品を書く際に複数の“ペンネーム”を使い分けたり、本業とは異なる名義の名前を用いたりする人が存在します。そんな“別名義”には、有名なものもあれば、「あの人だったの!?」と読書好きの方でも思わず驚くようなものもあります。

今回は、“作家の別名義”を4択のクイズにしてみました。ひとつのペンネーム(別名義)にまつわる情報をもとに、その作家のもっとも有名な名前を当ててみてください。問題は、全部で6問です。あなたは何問正解できるでしょうか?

【初級編】第1問


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【問題】

国民的キャスターとして成功を収めた男とその親友の関係を描いたデビュー小説、『幸せのままで、死んでくれ』が早くも話題となっている作家・清志きよしまれ。人気ミュージシャンとしてもよく知られているこの新人作家は、いったい誰?

A.「King Gnu」の常田大希
B.「L’Arc~en~Ciel」のtetsuya
C.「コブクロ」の黒田俊介
D.「いきものがかり」の水野良樹

 

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【答え】
D.「いきものがかり」の水野良樹

【解説】
2022年3月に小説『幸せのままで、死んでくれ』でデビューした作家・清志まれ。彼の別名は、国民的ミュージシャン「いきものがかり」のメンバー・水野良樹です。本作は、清志まれ本人がシンガーソングライターとして制作した同タイトルの楽曲を、小説の“主題歌”として同時配信する──という新しい形でも話題を集めました。

水野は、小説家デビューに際して別名義を選んだ背景について、

“たくさんポップな歌を書いてきたのにあきらめの悪い自分は、その生きづらさに、“清志まれ”という虚構をつくり、小説を書くことで向き合ってみようと思いました。”

と『THE FIRST TIMES』に掲載された公式コメントで語っています。新人作家・清志まれの今後の作品から、目が離せません。


【初級編】第2問

【問題】

1928年、親戚の少女・シモーヌとの奇妙な“遊び”を描いた過激な作品、『眼球譚』を発表した「オーシュ卿」(ロード・オーシュ)は、ある有名な哲学者・作家の“別名義”です。いったい、この人物は誰?

A.フリードリヒ・ニーチェ
B.ジョルジュ・バタイユ
C.ジャック・ラカン
D.西田幾多郎

 

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【答え】
B.ジョルジュ・バタイユ

【解説】

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『眼球譚』は、20世紀に活躍した哲学者・作家であるジョルジュ・バタイユによって書かれた作品です。性的でグロテスクな表現の多い本作は、その過激性ゆえに当時、偽名で発表されました。

「オーシュ卿」(ロード・オーシュ)という筆名は、ある友人が苛立つと決まって「便所に行け!」という意味で「オー・シュ!」と叫んだことに由来していると、バタイユは同書の解説のなかで語っています。“ロード”は、訳すと“神”。つまり、「オーシュ卿」は“用便する神”、“便所の神”というような意味なのです。


【中級編】第3問


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【問題】

中田永一、山白朝子、安達寛高など、執筆ジャンルによって複数のペンネームを使い分けることで知られる人気エンタメ作家がいます。この人物は、いったい誰?

A.乙一
B.赤川次郎
C.京極夏彦
D.はやみねかおる

 

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【答え】
A.乙一

【解説】
『夏と花火と私の死体』、『ZOO』などの代表作を持つ人気作家、乙一。緻密なミステリやホラー作品を多く発表しているイメージが強い乙一ですが、実は彼はペンネームを使い分け、さまざまなジャンルの作品を書いています。

恋愛小説や青春小説を発表する際のペンネームは、「中田永一」。中田永一名義の作品には、『百瀬、こっちを向いて。』『くちびるに歌を』などがあります。また、幻想的で耽美な怪談作品を発表する際のペンネームは「山白朝子」。さらに、映像作品のシリーズ構成などの際は、安達寛高という名義でも活動しています。乙一はまさに、“変幻自在”という言葉にふさわしい、いくつもの顔を持つ作家なのです。

(あわせて読みたい:乙一=中田永一=山白朝子=安達寛高。多様な作風とそれぞれの魅力。


【中級編】第4問

【問題】

1960年に発表された小説、『愛の処刑』。切腹死を描いた本作の作者である「榊山保」という人物は、ある有名な文豪の別名義だと認定されています。その文豪とは、いったい誰?

A.川端康成
B.谷崎潤一郎
C.江戸川乱歩
D.三島由紀夫

 

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【答え】
D.三島由紀夫

【解説】
作品タイトルやペンネームに聞き覚えがなくても、切腹死を描いた作品という情報から三島由紀夫の名前を選べた方もいるかもしれません。『愛の処刑』は、会員制の男性同性愛サークル「アドニス会」の機関誌に「榊山保さかきやまたもつ」名義で掲載された作品です。ある男が愛する者に見守られながら喜んで切腹する──というストーリーのこの作品には三島の小説『憂国』との類似点が複数あり、長年、三島の作品ではないかと議論され続けてきました。

2005年、小説家・詩人の中井英夫の自宅から三島の直筆原稿が見つかったことで、正式に「榊山保」は三島であると認定されました。『愛の処刑』はのちに、編集者・経営者である伊藤文學の手によって映画化もされていますが、ごく限られた劇場だけで上映された“幻の映画”であるようです。


【上級編】第5問

【問題】

昭和期に「加田伶太郎」というペンネームを用い、安楽椅子探偵・伊丹英典を主人公とする短編推理小説を複数執筆した人物は、ある高名な純文学作家でもありました。その作家とは、いったい誰?

A.福永武彦
B.永井荷風
C.伊藤整
D.丸谷才一

 

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【答え】
A.福永武彦

【解説】

出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09352301

加田伶太郎」は、純文学作家・福永武彦の別名義のひとつです。小説家・詩人として流麗な文体を特徴とする作品を多く残した福永ですが、意外にも彼には探偵小説やSF小説好きの一面もありました。加田伶太郎名義の作品には、『完全犯罪』『赤い靴』といった、名探偵が難事件を解決していく緻密かつ爽快なストーリーの短編が複数存在します。

ちなみに、「加田伶太郎」というペンネームは、「誰だろうか」のアナグラム(文字の並べ替え)に由来します。自分の正体が読者にわかるだろうかという、福永の茶目っ気のあるユーモアを感じます。


【超上級編】最終問題

【問題】

さまざまなペンネームを使い分け、あるときはエンタメ小説作家、またあるときは麻雀小説作家としても多大な人気を集めた小説家がいます。その人物、「杉民也」とは、いったい誰?

A.みうらじゅん
B.色川武大
C.五木寛之
D.阿刀田高

 

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【答え】
B.色川武大

【解説】

『寝心地よいアスファルト』収録/出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09352436

半自伝的小説『離婚』で第79回直木賞を受賞した作家・色川武大。その名前にあまり馴染みがない人でも、『麻雀放浪記』という作品名には聞き覚えがあるのではないでしょうか。色川は「阿佐田哲也」名義で『麻雀放浪記』を始めとする秀逸な麻雀小説を執筆したほか、ギャンブルや芸能、映画など、幅広い知識を活かした小説・エッセイを数多く残した作家です。

「阿佐田哲也」のほかにも「井上志摩夫」などさまざまなペンネームを持っていた色川ですが、「杉民也」はその中でも特に知られていない名前のひとつ。色川が「杉民也」名義で記した作品には、ドヤ街を舞台にした小説『寝心地よいアスファルト』があります。


おわりに

作家の“ペンネーム”クイズ、6問中何問正解できたでしょうか? 中級編以降はマニアックな問題が多く、読書家の方でもかなり苦戦されたかもしれません。

作家が別名義を用いる際、過激な小説や軽やかなエンタメ小説など、普段のイメージとはまったく違った作品が書きたいという動機があることが多いようです。今回のクイズでも紹介した6名の作家の小説は、元の名義での作品や活動をよく知っていれば知っているほど、そのギャップによい意味で裏切られ、心地よい驚きを味わえるはず。気になる作品を見つけた方は、ぜひその作家の別名義の作品とあわせ、手を伸ばしてみてください。

初出:P+D MAGAZINE(2022/04/15)

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