# BOOK LOVER*第18回* ぼる塾 酒寄希望

# BOOK LOVER*第18回* ぼる塾 酒寄希望

 さくらももこさんの書くエッセイが好きだ。『ちびまる子ちゃん』『コジコジ』のアニメや漫画を楽しんでいた私に、「エッセイも面白いから読んでみたら」と勧めてくれたのは母だった。そう言われて一作目の『もものかんづめ』を読み、人生で初めて活字で声を出して笑った。あの「まるちゃん」が、こんな面白い大人になっているなんて。すごい。

 さくらさんのエッセイ集はどれを取っても傑作だが、『たいのおかしら』はとくに好きだ。道端で女たちに責め立てられるダメ男の顔を見てやろうと「焼きイモ屋の屋台ほどの速度で」自転車を走らせるさくらさんの姿は想像するたびに爆笑できるし、険悪な仲だった猫のミーコとの思い出は泣けてしまう。

 でも一番心に残っているのは、「二十歳になった日」だ。二十歳の誕生日をひとりで迎えると決めたさくらさんが、静岡市内の街角をただまっすぐ歩いた思い出。この一編だけは笑いもオチもなく、ひたすらに淡々とした筆致で書かれている。黙々と歩き、ベンチに座った二十歳のさくらさんは、そのときの心境を「生きているだけでよかった。そう考えるのではなく感じていた」と表現している。この一文に出会ったとき、「ああ、わかる」と強く思えた。ドラマチックなことなど何も起きない日常でも、幸せを感じられる瞬間は本当はたくさんあるのだ。

 お笑い芸人としてはあるまじきことだが、私は瞬発力がない。だからこそ、文章でぼる塾のみんなとの幸せな思い出を書き残している。田辺さんとあんりちゃんとはるちゃんと一緒に過ごした時間を、あとからでも何度も再生できるように。

 


たいのおかしら

『たいのおかしら』
さくらももこ 著(集英社文庫)
日常のトホホな珍事から、炸裂する妄想まで。さくらももこのユーモアとみずみずしい感性が全編にほとばしる爆笑エッセイ。

酒寄希望(さかより・のぞみ)
1988年生まれ。2019年、きりやはるか、あんり、田辺智加とともにお笑いカルテット・ぼる塾を結成。育休中に書き始めた note のエッセイも話題に。

酒寄さんのぼる塾生活

『酒寄さんのぼる塾生活』
酒寄希望 著(ヨシモトブックス)

SNSでバズった「育休中に相方がめちゃくちゃ売れた」エッセイをはじめ、ぼる塾のリーダー・酒寄さんが綴る笑いと涙と友情がにぎやかに入り交じるエッセイ第2弾。

〈「STORY BOX」2023年6月号掲載〉

萩原ゆか「よう、サボロー」第1回
◎編集者コラム◎ 『お願いおむらいす』中澤日菜子