創立メンバーが語る、本屋大賞のこれまでとこれから

第7回(2010年) 冲方丁 『天地明察』(角川書店)

tenchi

第8回(2011年) 東川篤哉 『謎解きはディナーのあとで』(小学館)

nazotoki

内田:本屋大賞は4月に行われるのですが、2011年の4月は大震災の直後のため日本全国が自粛ムードで、僕らもさすがに今年は見送ろうかと思っていたんですが、むしろ東北の被災地にいる書店員さんの方から、「ぜひやってくれ」と言われたんです。本は「心の栄養」という意味で、水や食料と同じライフラインなんですよ。当時、僕たち書店員の間でも「紙の本はもういらないかもしれない」という話が出ていたんですけど、それに対する答えの一つが、第8回本屋大賞が無事開催されたという事実にあるのかもしれないですね。

第9回(2012年) 三浦しをん 『舟を編む』(光文社)

funewoamu

第10回(2013年) 百田尚樹 『海賊と呼ばれた男』(講談社)

kaizoku

第11回(2014年) 和田竜 『村上海賊の娘』(新潮社)

murakamikaizoku

第12回(2015年) 上橋菜穂子 『鹿の王』(KADOKAWA 角川書店)

shikano

内田:ここ3年間は連続で上下巻の作品が続いていますけど、これには別に特別な意味はありません(笑)。

 

そしていよいよ、第13回(2016年)の注目作品

では、いよいよ今回候補にノミネートされた10作品の中から、注目作を聞いてみましょう。

内田:今年僕が選考で気になった作品は、『教団X』と『君の膵臓をたべたい』ですね。『教団X』は、350ページ近くて、非常に厚い本なのに、学生の方にも在庫を何度も聞かれたんですよ。やはりアメトーークの「読書芸人」回で扱われたのが大きかったと思います。我々もPRは一生懸命やっているんですが、やはりテレビの力は大きいですね。

また、『君の膵臓をたべたい』は非常に現代っぽい作品ですよね。タイトルに「膵臓」という強い言葉を使ってるのもそうですし、内容も然り。それに、出版社が、例の『告白』を出した双葉社なんです。また狙ってきてるんじゃないかと僕は見ていますね(笑)。

 

また、今年の本屋大賞には次のような楽しみ方もあると内田さんは話します。

内田:芥川賞を受賞した『火花』、直木賞を受賞した『流』がノミネート作に入っていますが、今まで本屋大賞と同時受賞した例はありませんので、どうなるでしょうか。また、これまでの大賞受賞作で、実は文藝春秋の作品はないんですよ。最近、スクープを連発している「週刊文春」のイメージが強い文藝春秋ですが、今回は出版社別で最多の4作品がノミネートされているので、要注目ですね。

 

これからの本屋大賞

最後に、本屋大賞のこれからについて内田さんは『発掘部門』に注目して欲しいと語ります。

 

内田:権威を持ってしまったがゆえに、近年はしばしば「売れている本をさらに売るだけの賞ではないか」「大賞になった本しか売れない」という批判を受けていました。僕たちとしても、「埋もれている本を掘り出すのが本屋大賞の役割のひとつだ」という思いを持ちながら、なかなかその課題を解決できていなかった。そこで、今年から特にピックアップするようになったのが「発掘部門」なのです。

発掘部門」は、その名の通り、埋もれた作品を発掘する賞です。「本屋大賞」の選出要件はその年の新刊本に限るため、過去に出された本に投票することはできません。しかし、新刊本以外に投票できる発掘部門に力を入れることで、今まであまり知られずに埋もれていた本に、スポットライトを当てることができるのです。

さらに、これからの本屋大賞は書店ごとにその独自性を打ち出すものになっていくとのこと。多数決で選ばれる大賞だけでなく、書店ごと、書店員ごとにオススメ本をPRするような取り組みが進められているのです。

本屋大賞が年に1度のお祭りであることには変わりはありませんが、受賞作を決めるだけが賞の役割ではありません。この賞をきっかけに「本屋に行こう」という気持ちが世の中に育っていき、そして全国の書店それぞれの「今、本当に売りたい本」に触れる機会が増える……そんな広がりが今後も生まれていくことを期待したいですね!

初出:P+D MAGAZINE(2016/04/07)

福田ますみ著『モンスターマザー 長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い』が詳細に取材した事件の顛末。
新刊『夜を聴く者』の魅力について作者自身に批評してもらった。【坂上秋成インタビュー・前編】