椹野道流の英国つれづれ 第13回
「心配しないでください、学校の留学生サポートの人、とっても親切なんです」
「それはそうでしょうけど」
そこで言葉を切ったジーンは、何かを思いついたように、小さく頷いてからこう言いました。
「明日、またいらっしゃい」
「えっ?」
なんでまた? そりゃ、明日は日曜日で学校が休みだから、お伺いすることは可能です。
でも、Kからのプレゼントを渡すという用事は済んだわけで、もう私に会う必要はないはずなのに。
キョトンとする私に、ジーンは重ねて念を押してきます。
「この国では、日曜日は家族でサンデーディナーを食べる習慣なの。そうね、お昼前くらいにいらっしゃい。一緒にディナーをいただきましょう。必ずいらっしゃいね! 約束よ!」
ん? サンデーディナー……サンデーは日曜日。そのくらいはわかります。
ディナーは、夕食のことじゃないの? なんでお昼前に?
もしかして、昼から夕方までずっとご馳走の仕込みがあるんだろうか。だったら私にも、ささやかな人手としてやれることがあるかもしれない。今日のお礼が、少しなりともできるかも。
とにかく、これだけ親切にされて、さらに食事に招いてもらって、断る道理はありません。
せめていっぱいお手伝いして、感謝の気持ちを形にしなくては。
「はい、喜んで!」
私は元気よく答え、お礼を言いました。
実は、イギリスにおける〝dinner〟は、夕食というより「ご馳走」、つまり「1日のうちで、メインになる食事」を指すのだと知ったのは、週が明け、学校へ行ってから。
微妙な勘違いをしたまま、私の「長い日曜日」が、始まることとなったのです……。
兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。