椹野道流の英国つれづれ 第33回

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コウイカの骨は、カルシウムを補給するために、ケージに取り付けておくのだそうです。ほうほう。

これは、うちの近所の海岸を歩くと、たいていひとつふたつ、打ち上げられたものが見つかるので、それをよく洗って表面を削り、与えるようになりました。遊びも兼ねて、ガリガリと齧るのです。

さあ、お迎えの準備は完了。

リーブ夫妻とは、よくお礼を言ってここでお別れです。

私だけが、マイクと共に彼の家に戻ります。

親切なことに、マイクはカナリアを小さな移動用ケージに詰め、私と共に自宅まで送ってくれ、ケージのセッティングまで手伝ってくれました。

「カナリアがうっかりケージの外に出ちまったとき、外の世界まで出ないように、その建付けの悪い窓の隙間の覆いは、もっと頑丈なものに取り換えてくれ。あと、直射日光が当たらない、でも風は優しく通るあたりに……そうだな、ソファーの前のテーブル? でかい箱? 何でもいいか、その上あたりに置けばいい」

ケージを置く場所を決め、ケージにフードや水、眠るための柔らかな布製のネスト、カトルボーン(コウイカの骨)をセットしてから、慎重にカナリアをケージに移します。

しばらく固まっていたカナリアは、自分が安全な場所にいると理解できたのか、本当に雀のようにチュンチュン鳴きながら、2本の止まり木を行ったり来たりし、ペレットを啄み、水を飲みました。

ああ、一安心です。

そして、かわいい。

小鳥が1羽来ただけで、家の中がこんなに活気づくなんて。

驚く私に、マイクは顔を歪めるような無骨な笑みを浮かべて、「な、カナリアはいい家族になりそうだろう」と言いました。

「本当にそう。ありがとう、マイク。大切に育てます」

そう言うと、彼は目尻にジーンによく似た笑いシワを刻み、「名前はどうするんだ? もう決めたか?」と訊ねてきました。

実は、会ったときから、決めていました。


「椹野道流の英国つれづれ」アーカイヴ

椹野道流(ふしの・みちる)

兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。

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