今野杏南が覚悟を決めて挑んだ! 『あゝ、荒野』『杏南の日記』で放つ大人の女の色香と影。

人気グラビアアイドルから女優へと活躍の幅を広げている、今野杏南。その、作品に懸けた想いをインタビュー! ひとつは、新宿という都会の荒野の真ん中で孤独と戦い、誰かと繋がりたいと渇望する人間たちを描いた、魂を揺さぶる青春物語、『あゝ、荒野』。そして、篠山紀信氏との初セッションで濃密なエロティシズムの世界に挑戦している写真集『杏南の日記』。ファンの間でも話題騒然の、情熱と覚悟に満ちた挑戦の背景にはどんな想いがあったのでしょうか。

__二〇二一年夏 東京・新宿

三年ぶりの新宿__。
目の前に広がる街の風景は、記憶の中にあるものとはほとんど変わりはなかった。ただ、漂う空気がどこか違うように感じる。

『小説 あゝ、荒野』前篇 P.3より
(映画『あゝ、荒野』ノベライズ/大石直紀著)

これは故・寺山修司唯一の長編小説を、2020年東京オリンピック後の近未来(東京・新宿)という舞台の中で再構築し、現代の青春物語として鮮烈に甦らせた映画『あゝ、荒野』の冒頭場面。
父は自殺し母からは捨てられ、家も仕事もなく、どこにも、誰とも“つながっていない”孤独な少年院帰りの新次(菅田将暉)が、3年ぶりに新宿の街へ戻ってくる。
慣れ親しんだ街に漂う空気に焦燥感にも似た戸惑いと違和感を覚える新次を待ち受けていたのは、吃音障害と赤面対人恐怖症に悩むバリカン(ヤン・イクチュン)、ボクシングジムのトレーナーの片目(ユースケ・サンタマリア)など、予期せぬ偶然の出会いが“つなぐ”壮絶な熱き運命だった。

寺山修司に導かれた運命の転機

2016年、酷暑の夏も終わりを告げる秋風立ちぬ東京。
今野杏南もひとり、映画の撮影現場に戻っていた。映画『あゝ、荒野』は2年ぶり、8作目の出演作品となる。そして彼女もまた、これまでとはどこか違う空気の中で、予期せぬ出会いに導かれるように運命の転機を感じ取っていた。

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「撮影していたのは、ちょうど1年前ぐらいでしたね。当時のことを思い返すと、ほんと緊張の日々っていう感じでした。8作目の出演作とはいっても、まだまだ映画の撮影に関しては不慣れな部分が多くて…しかも、この作品に関しては、自分のお仕事にとって、もっと言えば人生にとっても、とても大事なものになるって感じていたんです。グラビアやDVDのお仕事を卒業する時期に来たとも思えたほどでしたから」

撮影が始まる数か月前、製作者からオーディションの案内ではなく直々に出演依頼があったことには驚きを隠せなかったが、かねてから寺山作品の独特の世界観に興味を持ち、彼の舞台や詩集に親しんでいた彼女は、寺山修司原作の映画化作品と聞いただけで心を強く動かされたという。

作中、彼女が演じる西口恵子は、西北大学のサークル“自殺抑止研究会”のメンバーで、主宰者・川崎敬三(前原滉)を恋人に持つ女子大生。男性やセックスに依存する傾向が強く、そうした行為でのみ自分の存在価値を見出そうとする救い難き悲しみを纏っている。

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「すごく難しい役でした。川崎への想いだったり、後に出会うバリカンに対する感情の揺れだったり、恵子の感情を少ない台詞の中で表現しなければならなかったですから。監督(岸善幸)からは撮影に入る前、恵子は依存心が強い子で、作品の中で一番辛い人生を背負って欲しいというお話があって…私自身とはまったく共通点のない女性ですからね、彼女の心の痛みのようなものはわかるんですけど…だからこそ、撮影前から私生活も含めて役作りに全力で臨みました。とにかく、私生活で嫌なことがあった時の心の痛みを忘れないよう、ほんと傷ついた心を撮影最終日まで抱えながら生きていたましたね。暗かったなぁ」

“自殺抑止研究会”のメンバーという役柄、自殺について何か思いを巡らせるようなこともあったのか気にかかった。
「自殺したいと考えたこと…ありますね。22歳ぐらいの頃だったかなぁ、グラビアの仕事
がとにかく忙しくて心と体がちくはぐになって、いきなり泣き出したり、情緒不安定な時期があったんですね。本気で死ぬ勇気なんかないんだけど、消えちゃいたいなぁって。疲れると、やっぱりそういうこと考える人が多いんじゃないかなぁ…」

恵子は、健二と繋がりたかった。川崎とまるで正反対のこの人と繋がれば、自分がちゃんと生きていくことを少しだけでも実感できるのではないかと思った。
初めてだということは、なんとなく想像がついていた。恵子は、健二が身に着けているものを、ゆっくり順に脱がしていった。そして、裸になった健二をベッドに寝かせ、自分もバスタオルを取った。
『小説 あゝ、荒野』後篇 P.131より
(映画『あゝ、荒野』ノベライズ/大石直紀著)

男性やセックスに依存する西口恵子を演じるにあたり、いわゆる濡れ場を逃れることはできない。役作りに「全力で臨んだ」とはいえ、ためらいや戸惑いもあったはずだ。

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「葛藤はありましたけど…小学生の頃からの夢である女優を目指すのであれば、それは絶対に避けては通れない道だと心に決めていましたから、ただただその場面に魂を入れようって頑張りました。でも、ネット上で多くのファンの方が、すごい濡れ場だとか期待してくださっているようで、ちょっと心苦しいです。迫真の演技で魅せるのは、私より木下あかりちゃんや、河井青葉さんじゃないかぁ。私は、どちらかというと(上記/健二との場面)「母のようだった」って、撮影現場ではそんな声もありました。なんか、男性を包み込む感じが出ていたそうです」

篠山紀信と“つながる”リアルな今野杏南

2016年、きらめくクリスマス・イルミネーションが街を彩る初冬の東京。
女優として全力を賭け臨んだ映画『あゝ、荒野』の撮影が終わった彼女の前には、さらなる衝撃の出会いが待っていた。
ある日、なんの前触れもなく写真家の巨匠、篠山紀信による撮影の話が舞い込む。

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「映画の撮影が終わり、ようやく夢のスタートラインに立てた! って思っていた頃でしたからね、こんな簡単にいいんですか!? って感じでした。篠山先生の写真はグラビアの仕事を始める前から大好きで、いつかは撮っていただきたいと思い願ってきましたから」

撮影は2016 年の年末から真冬の都内近郊で3度行われ、それは写真集『杏南の日記』としてまとめられた。
濃密なエロティズムの世界に挑戦した彼女は、これまで知る由もなかった自分自身の姿を写真の中に発見したという。
「今までのグラビアの撮影では、私の最高のベスト・フェイスというような“決め顔”が求められていたんですけど、篠山先生はまるで違いました。生きている私の一瞬、一瞬を撮っていただいたというか、今まで見せたことのないさまざまな私の表情がそこにはありました。暗かったり、陰な感じの私も含めて、この写真の中の自分こそが、リアルな今野杏南だと思いましたね。篠山先生には、フィルターを通して私の全てを見透かされていたんだなぁって感じです。お気に入りの一枚ですか? そうだなぁ、実際に飼っている猫ちゃんと一緒に撮ったものかな。私が強力にリクエストして撮っていただいたんです。あと、畳の部屋で撮った浴衣姿の私も、雰囲気があっていいなぁって思っています」

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濃密な時が流れる中で行われた撮影では、巨匠を前にしても臆することなく自分自身のアイデアや思いを伝えていくことに務めたという。
「色々なお話をさせていただくことで、私の撮影(写真集)に賭ける強い思い、覚悟を伝えたかったんです。結果的に、先生はそんな私の思いを汲んでくれて追加撮影までしてくださって…そんな濃い時間が、これまでにない私の表情を引き出してくれたと思います。それは確かです!」

ファインダー越しの篠山先生の眼差しを感じながら、本当の意味での“つながる”ことも実感したという今野杏南は今、DVDの仕事からの卒業を決め、運命の新たなステージへと踏み出した。映画『あゝ、荒野』の舞台となった2021年には、どんな世界へと辿り着いているだろうか。
「4年後…32歳になっていますね。女優としてバリバリ仕事をしていたいと思います。時代劇とかもやってみたいし、憧れている小池栄子さんと共演したいし…」
彼女の揺るぎない覚悟は、奇跡のような偶然の出会いを呼び寄せ、夢の荒野を突き進む。

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(取材・文/新村千穂)

作品紹介

小説 あゝ、荒野 前篇
ああ荒野_前編_書影

小説 あゝ、荒野 後篇

後編_書影

杏南の日記 by KISHIN

杏南の日記_書影

 

初出:P+D MAGAZINE(2017/10/06)

本と私 現代美術家 小松美羽さん
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