【耽美的な幻想文学が人気】赤江瀑のおすすめ作品を紹介

1933年山口県下関市に誕生。映画監督を志して日本大学芸術学部へ進みますが、在学中に映画への興味が薄れて中退します。その後ラジオドラマの懸賞に応募し当選したことで放送作家としてデビューすることになります。芸能や工芸などをテーマにした作品が多く、特に芸の道を極める過程での葛藤や破滅を描くことを得意としていました。独特で個性的な表現に熱狂的なファンも多い作家です。

オイディプスの刃

1974年に、第1回角川小説賞を受賞した作品です。1986年には映画化もされました。舞台は赤江瀑の生まれ故郷である山口県下関市。旧家である大迫家の主人は著名な刀剣収集家で、若く美しい元調香師の後妻と3人の息子と幸せな毎日を過ごしていました。主人は、南北朝時代の妖刀と名高い次吉という太刀を入手します。ある日、次吉の手入れをしている剣師が亡くなり、息子が殺害したと思った両親は息子をかばって自身の罪になるように見せかけ自殺します。その後成長した3人の息子ですが、剣師の死の謎をめぐり、またも妖刀・次吉に振り回されることに。物語の後半は怒涛の展開で、衝撃のラストシーンへと向かいます。

夏の光が明るくかがやく日の午後、大迫家に惨劇が起こった。庭の赤いハンモックに寝ていた刀研師秋浜泰邦の若い肉体を、名刀「次吉」が切り裂いた。息子からそれを知らされた母は、同じ刃で胸を突いた。一方父は、罪をかぶるために割腹自殺を遂げたのだった。三人の死は、残された異母兄弟三人の運命を狂わせる。

花夜叉殺し

花夜叉殺し
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4575239054

古都の寺社を舞台にした物語の短編集になっており、10の短編が収録されています。表題作の『花夜叉殺し』は、京都の南禅寺町にある郷田邸の敷地内にある広大な日本庭園が舞台の物語。数十年前に起こった、屋敷の女主人と親密になった庭師が起こした無理心中事件。庭師の心中に隠された秘密とは?美しい庭園の描写は素晴らしく、謎が謎を呼ぶミステリー作品です。

京都・南禅寺町の外れにある郷田邸は広大な敷地に庭木が植えられ『花屋敷』とよばれていた。ここで数十年前に無理心中があった。むせかえるほどの香気を放つ花木で埋めつくされた庭が、男と女を狂わせる。夢幻が彷徨い、時空を超えてゆらぎ立つ怪・魔の世界。

禽獣の門

禽獣の門
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4575239054

こちらも10作品からなる短編集となっています。表題作の『禽獣の門』は、能楽のシテ方S流家元の次男、立花春睦が主人公の物語です。主人公は、能楽界の若き天才としてその才能を認められながらも、自身では能に対する意欲を感じられないでいました。春睦は能をやめてデザイン会社で働き始めることに。そして妻と訪れた島で、春睦と妻は若者に陵辱されてしまいます。その後夫婦の関係は徐々におかしくなっていき……。その他、京都の古寺、獣林寺を舞台にした歌舞伎役者の物語『獣林寺妖変』も傑作です。

立花春睦は能楽のシテ方S流家元の次男である。彼は能楽に奥深い美を見いだしながらも、虚無を感じていた。能の世界を離れデザイン関係の会社に勤めた春睦は、妻・(あかね)を連れて日本海の漁村を訪れる。そこで起こった衝撃的な出来事が、二人の関係に裂け目を生み出す。

灯篭爛死行

灯篭爛死行
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4575239054

13の短編が収録されている短編集です。表題作の『灯篭爛死行』は、織部灯篭がモチーフとなっている物語。舞台は瀬戸内の漁村。海のそばにある小屋で主人公のいとこが焼死してしまいます。数年後に茶室の設計をすることになった主人公は、織部灯篭といとこの焼死事件の関連に気づくのでした。

瀬戸内の小さな漁村島での出来事だった。海ぎわにある流木小屋のなかで、従兄弟の山藤憲春は火につつまれた。なぜ、彼は爛死せねばならなかったのか!?二年後、「私」は茶室の設計を依頼された。そこで見せられた織部灯篭の来歴と、憲春の焼死事件とがからみ―。

罪喰い

罪喰い

『罪喰い』、『花夜叉殺し』など初期の代表的な短篇が収録されています。他にもモダンバレエをテーマにした『ライオンの中庭』、歌舞伎を扱った『赤姫』、移動式サーカス団の物語である『サーカス花鎮』なども収録。表題作の『罪喰い』は、1973年に第69回直木賞の候補作に挙がった作品です。西洋の古い死者儀礼に罪食いというものがあるらしい。主人公の建築家、秋村黒人は「日本でも罪食いに近いことが行われていたかどうか情報があれば教えて欲しい」という広告を週刊誌に出していました。罪食いという魔の言葉にとりつかれた建築家の物語です。

週刊誌の告知板に、建築家・秋村黒人が<罪喰い>という死者儀礼についての問合せを出していた。

最後に

美への傾倒、や芸術の素晴らしさを表現した作品が多いことから耽美派と評されることの多い赤江瀑作品。独特な表現や文体は、抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、惹きつけられると中毒になる人が多いのも事実です。映像化された映画作品でも見事に赤江瀑の世界観が表現されているので原作の小説と合わせて楽しんでみてはいかがでしょうか。

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初出:P+D MAGAZINE(2016/11/05)

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