就活小説に学ぶ、内定を勝ち取れるかもしれない4つの方法。
3月1日をもって解禁される就職活動。長く険しい就職活動を乗り越え、内定を獲得できるかもしれない方法を、「就活」を題材にした小説4作品から読み解きます。
大学生活の終わりが近づくと同時にやってくる、就職活動。早くも2018年3月1日にはマイナビ、リクナビに代表される就活情報サイトが一斉にオープン、さらに各社では企業説明会の受付が解禁されるため、今まさに就活生たちは事前の自己分析、業界研究に勤しんでいることでしょう。
就職活動が始まると、明確な正解がない試練に悪戦苦闘することに。「なんとかなる」といくら楽観的に考えていても、なかなかもらえない内定通知に、いてもたってもいられない状況に追いやられることもしばしば。「就活前はチャラチャラ遊んでたあいつに内定が出て、自分に出ないのはおかしい」と同級生に嫉妬の炎をむき出しにすることもあり得ます。
就活生は誰しも、「1日も早く内定が欲しい」、「もっと言えば自分の志望している企業(業種)に行きたい」と考えるもの。そんな就活生にP+D MAGAZINE編集部はこう提案します。
作品の中で就活に挑むキャラクターたちは、まさにこれから就職活動に挑む就活生と同じ状況にあります。作者自身の経験や、周囲から聞いたエピソードをもとにしているであろう就活小説において、登場人物が、上手くいかない就活に悶々とする姿は驚くほどリアルです。悩みながらも、“内定”を得るために戦う登場人物からは、勇気だけでなく、就活を乗り切るためのヒントを得ることができるはず。
今回はそんな「就活に役立つかもしれない方法」を、就活に関連する小説から読み解きます。
1.ファンの立場にとどまらず、志望理由を突き詰める/『格闘する者に○』
編集者として出版社への就職を目指していた作家、三浦しをん。デビュー作『格闘する者に○』はそんな作者の経験が色濃く反映された就活小説です。
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とある大学の文学部に通う藤崎可南子は、大学3年生。就活を行う時期がやってきたものの、周囲がせかせかとエントリーシートを書くのを尻目に、「面接の練習として有名百貨店でも受けてみよう。社員になったら社割で服が買えるかもしれない」とのんびり構えている始末です。
そんな可南子には、唯一幼い頃から情熱をもって取り組んでいたことがありました。それは、漫画を読むこと。「こんな漫画があったらどうだろう」、「こんな表現は漫画に向いているのではないか」と想像することも多い可南子は、編集者になってより良い漫画を作ることを熱望します。
そんな熱意を持って出版業界を志望する可南子にとって、就活は戸惑う瞬間の連続です。
説明会はリクルートスーツで行くのが相場らしいが、わざわざ「平服にておいでください」と書いてあったから、気合いを入れて可愛らしいタックの入った黒いカーディガンに黒いスカート、黒いストッキングにインパクトのある膝下までの豹柄(決して下品ではない)のブーツ、という完璧なるコーディネイトで出かけたのに、会場は見事にリクルートスーツで埋め尽くされていた。
(中略)
バッグからシャープペンシルを取り出して、私はもう一度驚いた。問題の表紙に「適性検査(SPI)試験」と書いてあったのだ。なぜ百貨店に入るためにスパイの適正が必要なのだ。
「平服」という言葉通り、普段の服装で行ったら周りがリクルートスーツで浮いてしまった……、という経験は就活あるあるとも言えますが、適正検査(SPI)を「スパイ」だと勘違いするのは独特の感性を持つ可南子ならでは。後に友人に「スパイならスペルはSPYだろ?」と指摘されて赤面するシーンは、思わず笑いを誘います。
しかし、「テレビや煙草がなくても構わないけれど、本や漫画がない生活なんて考えられない」と言い切る可南子には、どうしても出版業界へ進みたいという確固たる思いがありました。それは面接の場で、好きな漫画家や漫画雑誌について聞かれたときの返答からもうかがえます。
「明るい学園ものから暗い時代物まで、幅広く描ける、人間の心理をうまく表現できるところです。漫画が長編化してきていますが、読者に単行本だけではなく雑誌も買ってもらうには、彼女のように短編や中編が上手な漫画家をどんどん育てて、発表する場を与えることが重要だと思います。」
「高校生の恋愛を描いていても、どこかいぶし銀の渋みがあって、テンションの高さを求めるだけではなく、文学作品のようにじっくりと静かに読ませようとする物語が多いところです。小さいころは、よくわからないなあと思いつつも、子供心にその叙情性を感じて大人になった気分だったし、思春期に改めて読み直してこういうことだったのかと感動したり、今はまたもう少し距離を置いて鑑賞できたり、いつまででも読み返せる作品が多いから好きです」
「せっかく就職するなら、大好きなこの作品に携わる企業に入ろう」と考える就活生は多くいます。しかし、ただ「作品が好き」という気持ちをアピールしても、大勢のファンのうちのひとりにしかすぎません。可南子は「好き」だけでなく、「なぜ好きなのか」、「ファンをさらに増やすにはどうすればいいのか」を考えているのです。
もしも大好きな商品や作品に関する仕事をしたいのなら、一歩踏み込んだところまで志望理由をはっきりと答えられる可南子のような就活生を目指してみてはいかがでしょうか。
2.自分の“やりたいこと”を貫き通す/『陸王』
2017年10月から放送されていたテレビドラマも好評だった、池井戸潤原作の『陸王』。
物語の舞台となる老舗の足袋業者、「こはぜ屋」は創業100年という歴史を持つ一方、従業員は20名という零細企業で、業績も年々下がっている状況にありました。しかしある日、4代目の社長を務める主人公、紘一はこれまでに培った足袋作りのノウハウを生かしたランニングシューズ“陸王”の開発を思いつきます。資金不足、大手スポーツメーカーの妨害といった問題に遭いながらも、“陸王”の開発を諦めない「こはぜ屋」の姿から、読者は勇気と感動を与えられます。
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(合わせて読みたい:『陸王』池井戸潤・著者インタビュー)
そんな『陸王』には、もうひとつの物語がありました。それは紘一の息子、大地の就職活動。内定が得られないまま卒業した大地は「こはぜ屋」を手伝いながら、就活を続けていました。
負け癖がついてしまった大地にとって、面接はいまや苦痛以外の何ものでもない。たしかに、大学時代の成績はぱっとしなかったけれど、かといって平均以下というわけでもない。いってみれば普通の学生だったと思うのだが、面接で有りがちな意地悪な質問を跳ね返すほどの「何か」が、どうも自分には足りない気がした。経験なのか、性格なのか、いずれにしても、一朝一夕に身につけることのできない「何か」だ。
なぜ学生のうちに内定が得られなかったのか。その理由を大地は「何かが足りないから」と冷静に分析しています。紘一の「息子には継がせない」という言葉を受け入れた大地は「こはぜ屋」を単なる“内定までの腰かけ”にしか考えていませんでした。
しかし大地は「こはぜ屋」の一員として“陸王”の開発に挑むうち、自分の好きなことを追求する楽しさに気付き始めます。最終面接で“陸王”開発をめぐる紆余曲折を話し、「その仕事を続けたいんじゃないのかね」と面接官に投げかけられた大地。その帰り道、共に“陸王”のソール部分を開発していた飯山の言葉を思い返します。
「人生一度きりだぞ」
いつだったか、飯山が大地にそんなことをいったことがある。「好きなことをやれ。見栄張ってカッコつけて、本当に好きでもないことをする人生ほど後悔するものはない」
就活では数十社もの企業の選考を受けているうち、「自分のやりたかったことって何だろう」とふと疑問に思う瞬間があるはずです。もし内定を得ても、そこが本当は興味のない企業だったとすれば、その疑問を抱えながら働き続けることに耐えられるでしょうか。老舗足袋業社の「こはぜ屋」がランニング業界に挑戦することに面白みを感じ、その仕事を続けたいと思えるまでに成長した大地のように、あらためて自分の好きなこと、続けたいことを追求するのは、社会人になってからも生き生きと働けるかどうかを左右するほど重要です。
3.取り繕うことなく、“自分”を持つ。/『何者』
就活の情報交換を目的に出会った5人の大学生の心情をありのままに描いた『何者』。5人の関係は最初こそお互いの就活を応援する良好なものでしたが、やがて、内定を得た“裏切り者”が現れたときを境に、妬みや本音がSNSを通し徐々に表面化していきます。この作品は、2016年10月に実写映画化されたことでも大きな話題となりました。
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『何者』にはさまざまなタイプの就活生が登場しますが、そのうちのひとり、理香は、人脈を広げようと留学したほか、ボランティアに参加したことをSNSでアピールするキャラクターとして描かれています。
これは就活生にしばしば見られる“意識高い系”にありがちな行動。この“意識高い系”とは、自分を過剰に演出する一方で、前向きすぎる性格が災いして空回りしていることに気づかない人の俗称です。
やがてOB訪問でもらった名刺のメールアドレスをもとに、OBの私用のアカウントを探し始める理香。「今日は御社の面接に行ってきます。どんなお話をさせてくださるのかすごく楽しみです。」とメッセージを送り、日々の投稿から生活ぶりが垣間見えるその行動を主人公の拓人とその友人、光太郎はふたりきりの場でネタにします。
「アレぜってえ仲間内でネタにされてるよ。意識高い就活生がツイッターで絡んできてさー、とか言われてるよ」
「なんか学級委員女子がそのまま大学生になったって感じだよな」
「それ! 俺、ガキのころから学級員系女子のこと超笑ってたもん! さっすが拓人、いつもの分析が冴えますなあ」
就活に向け意識を高く持つ理香を、拓人は「学級委員女子」と冷静に分析しています。確かに、熱意だけが空回りしている理香は、はたから見れば「痛いやつ」に見えるかもしれません。しかし、心のどこかで「俺はそんなことをしなくても、選ばれるはずだ」と期待を捨てきれずに批判ばかり続けている拓人にも、内定が出ることはないのです。
選考が通らなければ、エントリーシートに綴ったそれまでの半生や、面接で求められた自分の意見を否定されたような気持ちになることもあるでしょう。それでも、嘘偽りなく「私はこんな人間です」と胸を張って伝えられる“自分”を強く持つ人が、最後には笑うのかもしれません。
4.どんなに辛いことがあっても切り替える/『シューカツ!』
学内の友人と「シューカツプロジェクトチーム」を結成した大学生、水越千晴。就活の中でも最難関とされるマスコミへの内定獲得を目指し、インターン、筆記試験、面接に挑んでいく姿を描いています。
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私立の名門“鷲田大学”に通い、大手出版社やテレビ局を第一志望としている彼らの就活は、どこか華々しいものに思えるかもしれません。しかし、作中で「マスコミの倍率は千分の一」とも言われている通り、チームを待ち受けているのは困難ばかり。いくら前向きな千晴でも、心ない言葉をかけられたテレビ局の面接の帰り道、涙を流します。
また、同じチームの恵理子はテレビ局のアナウンス部からお誘いを受けますが、千晴はそれを素直に喜べません。準ミスキャンパスに選ばれるほどの美貌を持ち、成績優秀な恵理子と競うことさえ間違っていた、と千晴はひどく落ち込みます。
「いつまでもへこんでいたって、しょうがない」
歩道に誰もいないのを確かめて、おおきな声でいってみる。これは意外と効果があった。気分がだいぶよくなったのである。
「笑顔と元気だ、千晴ファイト」
就活は、合否の差が就活生にはなかなかわからないもの。「これは合格に違いない」と自信を持ったはずが不採用となることもあるでしょう。千晴がOB訪問として訪れた西山は、就活についてこう語ります。
「ダメだったとしても、別にあなたが悪いわけじゃないの。ただ相性があわなかったか、運が悪かっただけ。反省なんてすることないんだよ。どんどんぶつかって、ぴたりとフィットする相手が決まるまで再チャレンジすればいいんだ」
最初に選考を受けた企業からそのまま内定を獲得する人は、そうそういません。誰もが一度は受け取るであろう不採用通知を前に、「相性が良くなかっただけだ」と切り替える千晴のような強さがあれば、就活を乗り越えられるはずです。
就活小説を読んで、内定獲得を目指そう。
社会人になる前、誰もが経験する就活。現在働いている方々は「このままで本当にいいのだろうか?」、「どうしてもこの企業に入りたいけど、何が足りないのだろう」という葛藤を経験し、その後の人生を左右するほどの試練を戦い抜いてきたのです。
就活生のあなたも、「就活小説」を手に、長く険しい就活に挑んでみてはいかがでしょうか。きっと、その内容に励まされ、前向きに頑張ることができるはずです。
初出:P+D MAGAZINE(2018/02/14)