【ランキング】女性を主人公にした心理スリラーに注目! ブックレビューfromNY<第27回>
NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの27回目。大好評を博している、女性を主人公にした本格心理スリラー作品を解説します!
<第27回>女性が主人公の本格心理スリラー①: 危険な結婚から逃れた妻が≪後継者≫に伝える恐怖の過去
The Wife Between Us/ by Greer Hendricks & Sarah Pekkanen
St. Martin’s. 2018.352ページ. US$26.99
今月のベストセラー事情~ゴーン・ガールの再来!?
今月の「ニューヨーク・タイムズ ベストセラー事情」は、ハードカバー・フィクション部門のトップ10 (2018年2月4日の週) を紹介する。[1]
1. The Woman in the Window
By A. J. Finn
Morrow
夫と別れたアンナ・フォックスは家から一歩も出ず、朝からワインや医者が処方した各種の薬を飲み、鬱々としながら幸せだった昔を思い出し、窓から近所の様子を覗き見ていた。通りを挟んで向かい側にラッセル家が引っ越してきた。両親とティーンエイジャーの息子、典型的な幸せそうな家族だった。しかしある晩、窓からラッセル家を見ていたアンナは殺人現場を目撃したと思った。果たして自分が見た事が現実なのか、それとも幻覚だったのか? 心理スリラー。
(ベストセラー3週目)
2. City of Endless Night
By Douglas Preston and Lincoln Child
Grand Central
事の始まりは、行方不明になったハイテク富豪の娘の捜索だった。そしてニューヨーク市クイーンズ区の廃倉庫で若い女性の死体が発見された。頭部がなくなっていた。どうやら犯人は二人組、一人が殺し、もう一人が死体を切断したようだった。犯人の捜査に乗り出したのは、FBI特別捜査官ペンダーガストとニューヨーク市警のヴィンセント・ダゴスタの名コンビだった。ペンダーガスト・シリーズ17作目。
(ベストセラー初登場)
3. Iron Gold
By Pierce Brown
Del Rey
10年前、ダローは革命のヒーローだった。しかし蜂起はすべてを打ち破り、平和と自由の代わりに終わりのない戦いをもたらした。すべての人々を救うことができるとまだ信じているダローの最後の戦いが始まろうとしている。Red Rising Sagaシリーズ4作目。
(ベストセラー初登場)
4. Origin
By Dan Brown
Doubleday
ハーバード大学の宗教象徴学のロバート・ラングドン教授は元教え子のIT富豪エドモンド・キルシュの招きでスペインのグッゲンハイム美術館のイベントに参加した。そこで《生命の起源》と《人類の運命》に関する重要な科学的発見を発表する予定だったエドモンドは発表直前に招待客の目の前で何者かに暗殺されてしまった。エドモンドの遺志を継いで、ラングドンはこの新発見を世界に公表すべく、エドモンドの開発した「ウィンストン」という名の人工知能の助けを借りバルセロナへと向かった。「ロバート・ラングドン」シリーズ5作目。
(ベストセラー16週目)
5. Little Fires Everywhere
By Celeste Ng
Penguin Press
クリーブランドの郊外のシェイカー・ハイツはすべてが区画どおりで平穏な住宅地だった。そこにアーティストでシングル・マザーのミア・ウォーレンと娘のパールが引っ越してきた。ミステリアスな過去を持ち、自分を貫く態度を取るミアに、ルール重視のミセス・リチャードソンは住宅地の秩序をかき乱したと腹を立て、ミアの過去を暴くことで彼女に対抗しようとしたが……。
(ベストセラー18週目)
6. Rooster Bar
By John Grisham
Doubleday
マーク、トッド、ゾラの3人は、希望に燃えてロースクールに入ったものの、3年生にもなると現実が見えてきた。莫大な学生ローンを抱え、もうけ主義の三流ロースクールを卒業したところで、司法試験に受かる可能性はほとんどなかった。怪しげなヘッジファンドの運営会社が自分たちのロースクールと学生ローンの所有者だと知り、3人は大掛かりなロースクールをめぐる詐欺事件に気付いた。そしてこの詐欺事件を公にすることで、自分たちの学生ローンをチャラにできるのではないかと期待し行動を起こしたが……。
(ベストセラー13週目)
7. Immortalists
By Chloe Benjamin
Putman
1969年、ニューヨークに心霊術師を自称するミステリアスな女性が現れた。彼女から自分の死ぬ日を知らされた4人の若い男女の、その後50年近くの人生。
(ベストセラー2週目)
8. Before We Were Yours
By Lisa Wingate
Ballantine
サウスカロライナ州の裕福な家庭出身のアベリー・スタフォードは連邦検事として活躍、ハンサムな婚約者との結婚式も間近だ。しかし父親の突然の病気で家に戻ったとき、彼女は家族の隠された暗い過去に気付くのだった。テネシー州メンフィスの養子縁組機関が貧しい家の子供を誘拐し裕福な家庭に売り渡していたという忌まわしい実話に基づき書かれた小説。
(ベストセラー18週目)
9. The Wife Between Us
By Greer Hendricks & Sarah Pekkanen
St Martin’s
ヴァネッサはヘッジファンド会社重役の夫リチャードと別れ、マンハッタンの叔母の家に居候をしている。そして別れた夫が再婚すると知り動揺する。ネリーは結婚式を控え、リチャードのような素晴らしい男性と結婚できる幸せをかみしめていたが、リチャードの別れた妻がどのような女性だったか気にしていた。そして徐々に明らかになるヴァネッサとリチャードの結婚の真実と思いもかけない物語の展開。心理スリラー。
(ベストセラー2週目)
10. Sing, Unburied, Sing
By Jesmyn Ward
Scribner
ジョジョは13歳になり、大人の男になることの意味を理解し始めていた。黒人である母親のレオニーは、白人との間にできたジョジョと幼い妹を抱え、困難な生活をしていた。子供たちの父親の刑務所からの出所が決まったとき、レオニーは子供たちを連れて刑務所まで迎えに行った。
(ベストセラー5週目)
今月のベストセラーの注目は、女性を主人公にした心理スリラー2作品。初登場以来3週続けてベストセラー1位の“The Woman in the Window” と、先週初登場で2位、今週は9位の“The Wife Between Us”だ。2012年にギリアン・フリンが上梓し、2014年に映画化され大評判となった『ゴーン・ガール』、あるいはポーラ・ホーキンスの『ガール・オン・ザ・トレイン』(2015年出版、2016年映画化)に続く、女性を主人公にした本格心理スリラー2作品が、2018年1月、ほぼ同時に出版されたのだ。そしてたちまち2作品とも大評判となり、先週のベストセラーリストでは1位と2位の地位を分かち合った。
というわけで、今月と来月で両作品を一つずつ紹介したいと思う。まず今月は9位の“The Wife Between Us”を先に紹介する。
[1] “A version of this list appears in the February 4, 2018 issue of The New York Times Book Review. Rankings reflect sales for the week ending January 20, 2018. Lists are published early online.”(このベストセラー・リストは2018年2月4日のニューヨーク・タイムズ紙ブックレビュー欄に掲載。リストは2018年1月20日で終わる週の売り上げをもとに作成されている)