採れたて本!特別企画◇レビュー担当7人が自信をもって推す!2021年ベスト本

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    ライトノベル    

ロケット商会
『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録
  

勇者刑に処す

電撃文庫

評者︱前島 賢 

 周囲の地形や生物を異形の存在に変えてしまう魔王現象。これを引き起こす怪物・魔王を倒すために選ばれたのが勇者だ。──だが、彼らは英雄と称えられる存在ではなく、その真逆。犯した大罪によって「勇者刑」を科せられ、死ぬことさえ許されず、永遠に魔王と戦うことを義務づけられた、重犯罪者なのだ……。

 ロケット商会『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』は株式会社KADOKAWAの小説投稿サイト「カクヨム」に連載中の作品が書籍化されたもの。ファンタジー版『特攻大作戦』あるいは『スーサイド・スクワッド』とでも言うべき、囚人勇者の物語だ。

 9004懲罰勇者部隊の面々は、連合王国の精鋭・聖騎士団の一員でありながら、魔王に対抗する切り札《女神》を殺害したザイロを筆頭に、どんな時でも手癖の悪さを抑えることができない窃盗癖の男、魔法による死と蘇生を繰り返したせいで人間性を失い、生きる戦闘機械となった者、希代のテロリストでありながら、なぜか自分を王様だと思い込んだ通称「陛下」など、友情を育むどころかマトモな会話さえ成り立たない人格破綻者揃い。彼らに下される命令も、五千の軍勢をたった二人で足止めしろ、などという不可能と思えるものばかりだ。

 犯罪者の烙印を押された男たちが、間断なく愚痴と悪態を吐きながら、それぞれのもつ尋常ならざる特技を駆使してミッションに挑む。正義や使命なんて言葉とは無縁の彼らだからこそ、ギリギリの土壇場で、見知らぬ誰かのために体を張ろうとする決断が、読み手の心を打つ。ライトノベル読者のみならず、冒険小説ファンにも是非、手にとって頂きたい。

 著者のロケット商会は、同じく「カクヨム」連載のウェブ小説『勇者のクズ』が2016年に出版され、書籍化作家としてデビューした。こちらは、超常の力で反社会組織を牛耳る「魔王」と、これに対抗する「勇者」という名の賞金稼ぎを描く一風変わった現代ハードボイルドだ。

 ライトノベルやウェブ小説の世界では、長らくファンタジーが根強い人気を誇っているが、そうしたなか「魔王と勇者」など、若い読者にもなじみやすい「お約束」の枠組みを用いて、サイバーパンクSFや経済小説、冒険小説などの既存ジャンルをファンタジーに取り込んでいこうとする試みも行われている。著者の作品は、まさにそうした一例と言えるだろう。勇者と魔王のファンタジーが、次はどんなジャンルと化学変化を起こすのか? というのも、ライトノベルやウェブ小説を追いかけていく楽しみのひとつである。
 

〈「STORY BOX」2022年1月号掲載〉

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