池上彰・総理の秘密<17>
消費税の引きあげを含めた増税策は、国民の生活にダイレクトに直撃する問題。世論の大きな反発は避けられない上、時に政権をも脅かすことになり得ます。現状、安倍総理は、消費税10%への引き上げ時期の延期をしていますが、教育の無償化などの諸問題を論じる際、増税案は再浮上してくるかもしれません。そんな「消費税引きあげ」に関して、池上彰がわかりやすく解説します。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラム。
消費税引きあげ言及は鬼門
安倍晋三総理は、「消費税」の8%から10%への引きあげ時期を、2017年4月から2019年10月に延期すると発表しました。当初予定の2015年10月からは、二度目の延期です。
歴代総理のなかで、最初に消費税に言及したのは、大平正芳氏でした。1979年(昭和54)の総選挙で、「一般消費税導入」を打ちだしたのです。しかし、世論から強い反発を受け、選挙の途中で撤回しましたが、選挙で自民党は敗北します。途中で撤回した態度が不信を買ったから選挙で負けたとの見方もありましたが、大方は、「選挙で増税の話はタブー」と受けとめました。
1986年(昭和61)には、中曽根康弘総理が、「売上税」に言及します。これも名前こそ違いますが、消費税の導入のことです。これに対する反発が強まると、中曽根総理は、「大型間接税と称するものをやる考えはない」と火消しに回り、選挙で勝利します。ところが、「大型でなければいいのだ」との方針を滲ませたため、ふたたび世論は反発。統一地方選挙で自民党は敗北し、売上税関連法案は廃案となりました。
結局、1989年(平成1)に、竹下登総理が消費税3%導入を果たします。が、竹下退陣後の宇野宗佑内閣は、スキャンダルもあって、参議院選挙で大敗を喫します。
1994年(平成6)には、細川護熙総理が、突然記者会見。「消費税を廃止して7%の国民福祉税」を提唱しますが、批判を受け、すぐに撤回しました。
1997年(平成9)、橋本龍太郎内閣が、消費税を3%から5%に増税しますが、翌年の参議院選挙で大敗し、退陣します。
2010年(平成22)の菅直人総理は、参議院選挙で消費税引きあげに言及し敗北。
2012年(平成24)、続く野田佳彦総理も「消費税増税に命をかける」と発言して小沢一郎氏らの集団離党を招き、民主党政権が瓦解する一因となりました。
消費税引きあげを表明した野田佳彦元総理
2012年(平成24)1月24日の国会召集日に所信表明演説をする野田総理。写真/AP/アフロ
池上彰 プロフイール
いけがみ・あきら
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。
(『池上彰と学ぶ日本の総理17』小学館より)
初出:P+D MAGAZINE(2017/03/24)