池上彰・総理の秘密<18>
政治家を志す人が進む道として挙げられるのが、「政治塾」。次代のリーダーを目指すべく自己研鑽に励む場所として、複数ありますが、中でも、政治家を多数輩出している政治塾として有名なのが「松下政経塾」。その成り立ちや、仕組みについて、池上彰がわかりやすく解説します。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラム。
松下政経塾とは?
野田佳彦前総理は、松下政経塾出身の初めての総理大臣でした。野田内閣の玄葉光一郎外務大臣も、当時の与党民主党の前原誠司政調会長も同塾の出身。政治の世界には与野党を問わず松下政経塾出身者が多数進出しています。
松下政経塾を設立したのは松下幸之助。いまのパナソニック、以前の松下電器の創設者です。松下幸之助は1894年(明治27)生まれ。家が貧しく、小学校を途中でやめて働くほどでしたが、努力家で商売のアイデアにあふれ、巨大な会社に育てました。
商売の分野で大成功を収めた幸之助でしたが、日本の政治の先行きを心配し、政治を変えるための若手の政治家を育てようと、1979年(昭和54)、自己資金70億円を出して、松下政経塾を設立しました。
松下政経塾は、神奈川県茅ヶ崎市の広大な敷地の中にあります。22歳以上、35歳以下の人が応募でき、入塾試験に受かった人は4年間、合宿しながら勉強を続けます。毎年多くの若者が試験を受けますが、合格するのは4〜5人程度です。
学費は不要で、毎月20万円の研修資金が渡されます。こうした費用は、幸之助が残した遺産が生み出す利子などでまかなわれています。その分、仕事をすることは認められていません。卒業しても、塾が就職先を見つけてくれたりすることはありませんから、入るには、それなりの覚悟がいります。
塾では、政治学や経済学などの専門的な学問のほか、茶道や剣道、座禅などにも取り組み、自衛隊体験入隊もあります。
卒業生は252人。45%が政治の世界に進んでいます。野田総理は、早稲田大学卒業後、松下政経塾の1期生として入塾しました。
最近では、松下政経塾出身の政治家が増えたことから、まるで政治家養成の「学習塾」のようだとの批判も聞かれます。
松下幸之助
電球のソケットを考案し、自宅で製造販売に取り組む。その後、新たに開発した二股(ふたまた)ソケットの大ヒットにより事業を拡大させ、1918年(大正7)に松下電気器具製作所を創業。1989年(平成1)4月、94歳で没した。写真/共同通信社
池上彰 プロフイール
いけがみ・あきら
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。
(『池上彰と学ぶ日本の総理18』小学館より)
初出:P+D MAGAZINE(2017/03/31)