池上彰・総理の秘密<24>
重要な閣議決定の場などで、国家元首や閣僚は「サイン」を求められることが多くあります。本人であることを示す、独特のサインであり、署名の代わりに使用される記号・符号のことを、「花押(かおう)」と言いますが、ご存知でしょうか?歴代の総理大臣がどんな花押を書いていたのかなどについて、池上彰がわかりやすく解説します。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラム。
総理のサイン(花押)
毎週2回開かれる閣議では、閣議決定などで閣僚の署名が求められます。署名の数が多く、「まるでサイン会のようだ」との感想を漏らした大臣もいます。このサインで用いられるのが、「花押」です。本人であることを示す独特のサインなのです。
芸能タレントが売れっ子になり、サインを求められるようになると、独自のサインを考案するようになります。これと同じようなものと考えてもいいでしょう。芸能人のサインは、傍から見て、何が書いてあるのか判読不能のものが多いのですが、少なくとも本人のサインであることはわかります。
これと同じで、署名を草書体に極端に崩して様式化したものが、花押と呼ばれます。中国で生まれ、日本では平安時代から使われるようになりました。名前のうちの2文字の偏や旁を組み合わせて1文字にするケースが多いようですが、名前の1文字だけをデザインしたものもあります。
明治以降は、証書などに印鑑を使用するようになり、花押のサインは一般的ではなくなり、自分の花押を持っているという人は少なくなりました。それでも、花押にはさまざまな流派が生まれ、ひとりひとりに合った花押をデザインしてくれる組織もあります。もちろん費用がかかりますが。
大臣になるまで自分の花押を持っていない議員も多く、大臣就任に伴い、あわてて花押を作る人が多いようです。ひとつひとつの書類に慣れない花押を書くのは大変。それに集中して、閣議の内容が疎かになっている大臣もいるとか…。
歴代の総理大臣が、どんな花押を書いていたのか知りたい方は、官邸のホームページの「歴代総理の写真と経歴」をクリックしてください。顔写真の下に、それぞれの総理の花押が出ています。
池上彰 プロフイール
いけがみ・あきら ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。
(『池上彰と学ぶ日本の総理24』小学館より)
初出:P+D MAGAZINE(2017/05/12)