池上彰・総理の秘密
内閣総理大臣の家紋(紋章)を、すぐに思い浮かべることができますか?記者会見をする時に、演題に掲げられている、桐の紋。それが家紋です。紋章といえば、他にどんなものがあるのでしょうか?池上彰がわかりやすく解説します。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラム。
内閣の家紋
内閣総理大臣が記者会見するとき、演台に桐の紋が掲げられていることにお気づきでしょうか。これが内閣総理大臣の紋章です。あなたの家に家紋があるように、内閣にも家紋(紋章)があるのですね。
紋章といえば、皇室の菊の御紋が有名ですね。皇室に対して功績のあった人に対して菊の御紋が入った品物が渡されることがあります。天皇陛下が国内旅行されるとき、警備に当たった警察官に恩賜のたばこが配られることもありました。もらった警察官から私も1本いただいたことがあります。禁煙運動の高まりで、2006年(平成18)に廃止され、いまは代わりに容器に菊花の紋章の入った金平糖になっています。
身近なところでは、パスポートの表紙に菊の御紋が使われています。海外の日本大使館の玄関の上にも菊の御紋があります。大使が天皇陛下から派遣されたことを意味しています。
パスポートの中を開くと、顔写真の周辺にあるのが桐の紋。五七桐と呼ばれる紋で、こちらは日本政府の紋章です。500円硬貨にも使われています。紙幣は日本銀行が発行していますが、硬貨は日本政府発行だからです。
日本の家紋としては菊の御紋が最高位で、二番手が桐紋。桐は鳳凰が止まる木として神聖視されてきました。天皇が任命した征夷大将軍などには桐紋が下賜され、政権を担当する者の紋章として認識されるようになり、これが政府の紋章として定着するようになったと見られています。
アメリカ大統領の記者会見のときの演台に大統領の紋章が使われているように、海外の首脳は、それぞれの紋章を使っています。これにならい、日本の政府も、総理大臣の紋章として五七桐を積極的に使用するようになったため、最近よく見かけるのです。ちなみに法務省が使うのは五三の桐。総理に遠慮して葉を少なくしたのではないかと言われています。
安倍晋三総理記者会見の演台に見える桐紋(2016年6月1日)
池上彰 プロフイール
いけがみ・あきら ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。
初出:P+D MAGAZINE(2017/05/26)