文学的「今日は何の日?」【2/3~2/9】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
2月3日から始まる1週間を見てみましょう。

2月3日

野々宮希和子が秋山丈博・恵津子夫妻の子を連れ出す

1985年のこの日の朝、角田光代『八日目の蝉』において、無施錠のアパートに忍び入った野々宮希和子が、ベビーベッドに寝かされていた赤ん坊を連れ去りました。このとき、赤ん坊の両親は、出勤する夫を妻が最寄り駅まで送りに出ていて不在。わずか20分ほどの間のできごとでした。実はこの夫・秋山丈博は、希和子の不倫相手。「あの人の赤ん坊を見るだけ」と部屋に侵入した希和子でしたが、実際に赤ん坊を見て、触れた途端、「私があなたをまもる」という気持ちが芽生えます。東京から名古屋、小豆島へと、薫と名づけた赤ん坊と逃亡生活を続ける希和子。「母性とは何か」を世に問うた衝撃作です。

20200203
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4122054257/

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2月4日

元帥を夢みた男、丹野一輝が生まれる

檀一雄の短編「元帥」の主人公・丹野一輝は、昭和2年の節分にあたるこの日、柳河(現在の柳川市)の鍛冶屋町にある大八車職人の家で生まれました。母セツは産後の肥立ちが悪く、一輝の生後3週間で亡くなります。父の梶太は、臨月のセツを無理矢理抱いたことに後ろめたさを感じていますが、実はセツも夫に言われぬ秘密を胸に死んでいったのでした。職人の父に似ず学業ほか万事に秀で、陸軍に入って元帥になることだけを夢みた一輝の輝かしい成長、戦争による挫折と転落を淡々と描く佳品です。

20200204
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09352323

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2月5日

国立浪速大学医学部で臨時の教授会が開かれる

昭和38年のこの日、山崎豊子『白い巨塔』において、大阪市にある国立浪速大学医学部で、第一外科教授・東貞蔵の停年退官に伴う次期教授選出のための臨時教授会が開かれました。候補者は同大学助教授・財前五郎、金沢大学教授・菊川昇、徳島大学教授・葛西博司の3名。1週間前に行われた最初の投票で過半数の票を得た者がいなかったため、この日、上位2名による決選投票が行われることとなったのです。野心に燃える財前は、教授の椅子をつかむことができるのか? 医学界の腐敗を鋭く追及したこの作品は、映画のほか、6度にわたってテレビドラマ化され、その都度大きな反響を呼んでいます。

20200205
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4101104336/

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2月6日

日本最古の火祭り、神倉神社のお燈祭りが行われる

2月6日は熊野新宮速玉神社の摂社「神倉神社」のお燈祭り。神武天皇東征の古事にならって行われる、日本最古の火祭りです。生涯にわたり、故郷の紀州熊野の風土を背景とした作品を書き続けた中上健次は、短編「神坐」でこの祭りの1日を描きました。母の還暦を祝うため、祭りの日に久しぶりに帰郷した主人公。半年のあいだ別居していた妻子、何年も会わずにいた両親との関係の再生を、穏やかに描いています。

20200206
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09d03725

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2月7日

源義経率いる源氏軍が鵯越で決死の逆落とし

寿永3年のこの日、現在の兵庫県神戸市にある一ノ谷で源平の合戦が行われました。源氏は源範頼(みなもとののりより)軍と義経軍の二手に分かれ、一ノ谷に城郭を構えた平氏軍を攻めます。なかでも(ひよどり)(ごえ)の断崖絶壁を馬で駆け下りた義経軍の(さか)落としは、背後からの敵襲を予期していなかった平氏軍に壊滅的な打撃を与えました。熊谷直実の一二の駆け、笛の名手・平敦盛の最期は『平家物語』に描かれたほか、能の『敦盛』、歌舞伎の一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)でも広く親しまれています。宮尾登美子が少女時代から親しんでいた『平家物語』に、自身の解釈を加味して書いた『宮尾本 平家物語』、一度手に取ってみてはいかがでしょうか。

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出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09d06156

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2月8日

美貌の妻ナターリアのため、プーシキンが決闘に臨む

1837年のこの日、ロシアの作家アレクサンドル・プーシキンが、フランス人士官ジョルジュ・ダンテスとの決闘に臨みました。プーシキンの妻ナターリアは社交界の花の誉れ高い絶世の美女。ダンテスはそのナターリアに執拗に言い寄っていたのです。彼女の不貞をほのめかす怪文書まで出回ったことから、プーシキンが決闘を申し入れ、ペテルブルク郊外の雪原で両者は相見えます。わずか10歩の至近距離から撃たれた銃弾を腹部に受けたプーシキンは、その2日後に37歳の若さで世を去りました。

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2月9日

上総国の茨田連沙弥麻呂が防人歌を大伴家持に提出

天平勝宝7年のこの日、大伴家持(おおとものやかもち)防人歌(さきもりうた)「防人の堀江こぎ出る伊豆手舟(かじ)取る間なく恋は繁けむ」を詠んでいます。この2月は防人交替の時期にあたり、家持は各地から集まった防人たちに防人部領使(さきもりがことりづかい)を通して歌を提出させ、そのなかから選りすぐったものを『万葉集』に収めました。上総国(かずさのくに)の防人部領使・茨田連沙弥麻呂(まむたのむらじさみまろ)もこの日、とりまとめた19首を提出していますが、「拙劣の歌は取り載せず」とあって13首だけが収録されています。

20200209
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09658009

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初出:P+D MAGAZINE(2020/02/03)

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