文学的「今日は何の日?」【9/14~9/20】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
9月14日から始まる1週間を見てみましょう。

9月14日

日本最初の女子留学生・津田梅子が、津田塾大学の前身となる女子英学塾を創立

明治4年、当時6歳の津田梅子を含む日本最初の女子留学生5名が、岩倉使節団と共にアメリカに向けて旅立ちます。梅子は生涯の友となる山川捨松、永井繁子と共に学び、明治15年に帰国します。しかし、当時の日本には、女性が留学経験を生かして働ける場所はありませんでした。再度の留学後の明治33年9月14日、梅子は東京市麹町区一番町(現在の千代田区三番町)に津田塾大学の前身となる女子英学塾を創立。長年の希望であった華族平民の別のない女子高等教育を開始します。津田塾大学卒業生の作家・大庭みな子は、梅子が留学先の里親マデリン・ランソンと交わした30年分の往復書簡をもとに、評伝『津田梅子』を書き上げています。第42回読売文学賞(評論・伝記賞)受賞作です。


出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09352376/

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9月15日

実は女性である中納言、男姿で生きる自分に疑問を覚える――『とりかへばや物語』

ある権大納言に2人の子がいました。若君は人見知りで女性的。逆に活発な姫君は、客があればすぐに出て挨拶をし、詩を吟じるなど豊かな才能を見せます。父・権大納言はそんな2人を「取り替えたい」と思っていましたが、美しく才気溢れる若君(じつは姫君)の評判は帝にまで伝わり、姫君は本当に男子として出仕することになってしまいました。順調に出世を遂げ中納言となった姫君ですが、9月15日宿直とのいの折、帝の寝所に上がる女御を見かけます。そこで改めて「私も人並みに振る舞っていたら、あのように大切にかしづかれていたのだろうか」との思いが浮かび、男として生きる自分に疑問を覚えるのでした。女同士の結婚、男同士の濡れ場など、セクシュアルな局面も多出する異色の王朝文学作品です。


出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09658039

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9月16日

相場英雄『震える牛』において、中野駅前・居酒屋強盗殺人事件が発生する

ベテラン刑事の田川信一は体を壊して以来、捜査の第一線を外れ、今は警視庁捜査一課継続捜査班で未解決事件の捜査にあたっています。そんな田川に持ち込まれたのは、2年前の9月16日未明に起きた「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」でした。深夜営業中の居酒屋に押し入った強盗が店のレジから金を奪った挙句、居合わせた客2人を刺殺し、金品を奪って逃げたというものです。その手口から「金目当ての不良外国人による犯行」として捜査されていましたが、現場ならびに周辺の目撃証言を洗い直した結果、田川は犯人がベンツで逃走していたことを掴みます。単なる物取りではなく、2人の殺害が目的だったのではないか? 田川の地道な捜査が犯人を追い詰めます。


出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09408821

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9月17日

ロジャー・アクロイドが刺殺される――アガサ・クリスティー『アクロイド殺し』

ミステリーの女王アガサ・クリスティーが1926年に発表した『アクロイド殺し』は、9月17日金曜日の朝、フェラーズ夫人がキングズ・アボット村の自邸で死亡しているのが発見されたところから始まります。彼女と再婚する予定だった村の富豪ロジャー・アクロイドは、医師のジェイムズ・シェパードとの夕食の席上、フェラーズ夫人から「一年前に夫を毒殺し、そのことで誰かに恐喝されていた」と告白されていたと語りますが、その晩、何者かに刺殺されてしまいます。ロジャーの姪フローラは、シェパード医師の隣家でカボチャの栽培にいそしむ風変りな男が名探偵エルキュール・ポアロだと知り、彼に捜査を依頼しますが……。


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4151300031/

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9月18日

人形作家・星鑛司の個展の初日――津原泰水『ピカルディの薔薇』

『蘆屋家の崩壊』から始まる津原泰水の人気作「幽明志怪」シリーズ。三十路を過ぎて定職につけずにいた猿渡も、第2作『ピカルディの薔薇』では作家として歩みを始めています。その猿渡が編集者・奈々村からの紹介で出会ったのが、人形作家の星鑛司でした。作者の分身のような少年の人形に、感銘を受ける猿渡。星は障碍のために五感を失い、療養所でのリハビリテーションの一環として人形づくりを始めたと語ります。そんな星に銀座の画廊から個展の話が舞い込みます。9月18日から3日間の日程で開かれる初の個展に向け、張り切る星から手紙を受け取った猿渡は、奇妙なことに気づきました。人形の個展なのに、星は人形ではなくそれを入れるを作っているのです。星にいったい何が……?


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4480429492/

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9月19日

火付盗賊改方頭となった長谷川平蔵、江戸城清水門外の役宅に転居

天明7年9月19日池波正太郎の時代小説『鬼平犯科帳』の主人公・長谷川平蔵宣以のぶためが火付盗賊改方の頭に任じられ、目白台にある屋敷から江戸城清水門外の役宅(現在の千代田区役所付近)に移ってきました。平蔵42歳の時です。400石の旗本の息子として生まれた平蔵ですが、妾腹のため父の正妻から疎まれていました。そのため屋敷へは寄り付かず、高杉道場で剣術の腕を磨く傍ら、賭場や岡場所へ出入りして遊蕩三昧の青年時代を送ります。旗本ながら庶民感覚にも通じ、義理も人情も心得た苦労人・平蔵の公正な裁きは、名奉行として知られる大岡越前守忠相ただすけになぞらえて「今大岡」と呼ばれ、親しまれたと伝わっています。


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B009A497S8/

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9月20日

ローマ法王ピオ12世、宇宙征服への努力を祝福――ブラッドベリ『よろこびの機械』

SFの詩人と呼ばれるレイ・ブラッドベリが、1960年に発表した短編集『よろこびの機械』。表題は、当時、ソ連とアメリカが開発にしのぎを削っていた宇宙ロケットを指しています。宇宙開発の狂騒ぶりを嘆くローマ教会の神父たちですが、ある神父が1956年9月20日に第261代ローマ法王ピオ12世(ピウス12世)が発表した「宇宙征服への努力を祝福」の新聞記事の切り抜きを示し、ピオ12世は「宇宙旅行に関する回勅」も出したと言い出します。ですが、他の神父は誰もその記事を読んでいないのです。ビッグ・バン理論が聖書の「創世記」に合致していると表明したピオ12世だけに、祝福も回勅もありそうな話のように思われ、神父たちは戸惑います。果たして真相は……?


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初出:P+D MAGAZINE(2020/09/14)

山下紘加『クロス』/女装をアイデンティティに「性」を超えていく
HKT48田島芽瑠の「読メル幸せ」第29回