文学的「今日は何の日?」【9/21~9/27】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
9月21日から始まる1週間を見てみましょう。

9月21日

清国の西太后がクーデターを起こし、光緒帝を幽閉する

浅田次郎蒼穹そうきゅうすばる』シリーズは、中国の近代史を描く大河小説。第2作珍妃ちんぴの井戸』は、排外主義を唱えて蜂起した義和団の事件を描きます。近代化を目指し、改革「戊戌ぼじゅつの変法」を推進した清朝第11代皇帝光緒帝ですが、第9代皇帝咸豊帝の妃として権勢をふるう西太后はこれに反対の立場を取っていました。1898年9月21日、西太后はクーデターによって光緒帝と寵妃・珍妃を捕らえて幽閉、変法推進派の粛正を開始します。義和団が北京に押し寄せ混乱が広がるなか、西太后は光緒帝を連れて西安へと脱出しますが、珍妃は紫禁城内の古井戸に頭から投げ込まれて死亡していました。若く美しい妃を、いったい誰が、何のために殺したのか? 浅田次郎の筆が胸に迫ります。


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9月22日

ビルボ・バギンス、111歳の誕生日に姿を消す――トールキン『指輪物語』

J・R・R・トールキン『指輪物語』は、ホビット族やエルフ、ドワーフらが暮らす架空世界「中つ国」が舞台。ホビット紀元1401年9月22日、111歳の誕生日を迎えたホビット族の古老ビルボ・バギンスは、「旅に出る」と祝宴の席から姿を消しました。彼の養子フロドもその日が33歳の誕生日。ホビット族の成年に達し、ビルボの全財産を相続します。そのなかに指にはめた人が透明になるという金の指輪がありました。実はこの指輪、中つ国を統一する強大な力を秘めているのです。それを知り、フロドから指輪を奪おうとする冥王サウロン。中つ国を守るには、オロドルインの火口の底にある滅びの罅裂きれつに指輪を投げ込み、完全に破壊するしかありません。フロドとその仲間の旅が始まります。


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9月23日

薩摩国の鬼界ヶ島に赦免の使者がやって来る――菊池寛『俊寛』

安元3年、平氏打倒の密議「鹿ヶ谷の陰謀」に連座した俊寛は、藤原成経、平康頼と共に薩摩国の鬼界ヶ島への流罪となりました。その1年後に平清盛の娘で、高倉天皇の后となった徳子の安産祈願の恩赦が行われ、治承2年9月23日、鬼界ヶ島にも赦免の使者がやって来ます。ところが許されたのは成経と康頼だけでした。『平家物語』には、1人残された俊寛は都の妻子のありさまを知って世をはかなみ、自ら食を断って死んだとありますが、菊池寛の描く『俊寛』は違います。都への思いを断ち切り、自ら小屋を建て、畑を耕し、魚を捕り、妻を娶って、ロビンソン・クルーソーのごとく逞しく生きるのです。果たしてあなたは、どちらの俊寛像に共感を覚えるでしょうか?


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9月24日

ジョン・スミス氏こと「あしながおじさん」に、ジュディが最初の手紙を書く

匿名の資産家からの援助で大学に進学した、孤児院育ちの少女ジュディの物語『あしながおじさん』ジーン・ウェブスター作)。援助に課せられた条件は、その資産家に毎月手紙を書くことです。たった一度、後ろ姿を見かけた彼の、手足ばかり長い影の印象から、ジュディは彼を「あしながおじさん」と呼ぶことにしました。大学に到着した翌日の9月24日、ジュディは「あしながおじさん」に最初の手紙を書きます。初めて知る、孤児院の外での暮らしが生き生きと綴られた手紙は、とても魅力的。きっと「あしながおじさん」も、時間を忘れて読みふけったことでしょう。作者のジーン・ウェブスターは、『トム・ソーヤーの冒険』などで知られるマーク・トウェインの姪孫にあたる人物です。


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9月25日

国禁の地図などを持ち出そうとしたシーボルトに「日本御構おかまえ」の沙汰が下される

幕末の日本で西洋医学教育を行い、日本医学の近代化に寄与したオランダ商館付きの医師シーボルト。文政11年に帰国する際、国禁の日本地図などを持ち出そうとしたことが露見し、シーボルトに地図を贈った幕府天文方・高橋景保を始めとする10数名が捕らえられます。高橋は取り調べ中に獄死、他の者も厳罰に処せられました。世に名高いシーボルト事件です。文政12年9月25日、シーボルト自身にも「日本御構」(国外追放)の沙汰が下されます。そのとき、シーボルトには其扇こと楠本滝との間に生まれた、2歳の娘・稲がいました。やがて日本最初の女性医師となる稲の生涯は、吉村昭『ふぉん・しいほるとの娘』に詳しく描かれています。


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9月26日

洞爺丸の遭難事故で氷沼蒼司の両親と伯父夫婦が死亡――中井英夫『虚無への供物』

日本推理小説における三大奇書のひとつとされる中井英夫『虚無への供物』は、戦後史に残る「洞爺丸事故」が大きな鍵を握る作品です。昭和29年9月26日、青函連絡船洞爺丸が台風15号による荒天のため、函館沖で沈没しました。死者・行方不明者1155人に上ったこの海難事故で、両親と伯父夫婦を失った氷沼蒼司・紅司兄弟。氷沼家では北海道開拓使を務めた曽祖父・誠太郎が狂死して以来、広島の原爆、函館大火などで多くの者が命を落としてきました。それは誠太郎が北海道で行った残虐行為によるアイヌの蛇神の呪いとの噂があるのです。やがて呪いの手は紅司、そして叔父の橙二郎へと伸び……。素人探偵・奈々村久生が、呪いの謎に挑みます。


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9月27日

読売新聞社・正力松太郎の仲介により、本因坊秀哉と雁金準一の対局が行われる

『花と蛇』などの官能小説で名高い団鬼六は、子供の頃から将棋が趣味。「将棋ジャーナル」誌にコラムを書いていたほどでした。一方、囲碁が趣味の実父の影響で明治から昭和にかけて活躍した囲碁棋士・雁金準一にも関心を持ち、雁金の弟子・富田忠夫の知遇を得て執筆したのが、絶筆となった『落日の譜 雁金準一物語』です。当時家元制であった本因坊の跡目争いに敗れ、日本棋院と袂を分かつ雁金ですが、大正15年9月27日、読売新聞社社長・正力松太郎の仲介により、本因坊秀哉と対局を行いました。持ち時間16時間という長丁場の壮絶な戦いの決着は……? 何事にも揺るがぬ一徹な生き方を通した天才棋士の生涯に、鬼才・団鬼六が迫ります。


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初出:P+D MAGAZINE(2020/09/21)

【著者インタビュー】清水 潔『鉄路の果てに』/鉄道で75年前の父の足跡をたどる
インゲ・シュテファン 著、松永美穂 訳『才女の運命 男たちの名声の陰で』/才能に溢れながら、歴史の影に隠れた偉人の妻たち