【栃木県民マンガ】負けるな!ギョーザランド!! 第11回 栃木の大麻は太古の昔から生活必需品だった!? まんが/いちごとまるがおさん 監修/篠﨑茂雄
栃木の名物といえば、いちごやかんぴょうが思い浮かぶけど、栃木県人でも「え、あれもそうなの!?」と驚くだろうものがある。麻……大麻草だ。麻薬とは全然関係ない、麻の歴史と魅力について紹介しよう。
ここでクイズです。
・大麻は稲よりも早くから利用されていた。
・「麻のシャツ」には大麻が使われている。
・女の子の名前の「麻由美」や「麻子」は大麻に由来する。
さて、正解はいくつあるでしょう?
マンガを読めばわかります!
マンガ中の記号(※1)などは、マンガのあとに出てくる用語解説「餃子国の歩き方」の番号と対応しています。
■(※1)大麻
日本の麻(大麻)は、稲より早くから利用されていて、縄文時代の土器の模様は、麻縄でつけられたものかもしれない。飛鳥時代から平安時代の税金の一種である租庸調の「調」は、麻や絹で織られた布を意味しており、当時の状況を記した『延喜式』によれば、下野国(栃木県)など東日本各地から「麻」や「麻子」が納められた。
栃木県は、少なくとも江戸時代の中期頃より麻の産地として名声を博していて、綱、袋、漁網、下駄鼻緒の芯縄などに利用されていた。九十九里沿岸の鰯漁(干鰯=肥料として利用された)の発達にも一役買っていたそうな。
明治時代になると栃木産麻の販路は東日本一帯に及び、その後軍服、帆布、馬具などの軍需産業とも結びついて、ますますその存在価値が増していく。
ところが昭和30年代になると麻の需要が減少していき、生産者も激減。でも、日本の麻文化を守ろうと踏ん張っている人たちがいる。その中心的役割を担っているのが、やはり栃木の麻農家なのだ。
■(※2)別の植物
麻の服、麻のロープ、麻袋……。麻が使われている製品はいろいろあるけど、同じ植物が原材料になっているとは限らない。「麻」は強い繊維が採れる植物の総称で、大麻をはじめ、苧麻、亜麻、マニラ麻などすべてが「麻」と呼ばれているのだ。大麻はアサ科アサ属、亜麻はアマ科アマ属、マニラ麻はバショウ科バショウ属とまったく違う植物から採れる繊維で、見た目も全然違っている。
共通しているのは植物(草)であることくらい。なのにまとめて「麻」と呼ぶのは、松や檜、樫、桐、桜などをとりあえず「木」と呼んでおくのと同じようなもの。もちろん松、檜にそれぞれに特徴があるように、昔の人は大麻、苧麻、亜麻、マニラ麻などを明確に使い分けていた。少なくとも戦前の、とくに山間部に住むの人たちは。今日、一緒くたにされているのは非常に残念だ。
昔の日本では麻=大麻で、江戸時代に書かれた文献を見ると若干の例外(中国の影響を受けたと思われる百科事典『和漢三才図会』などを除けば、おおむね「麻」は大麻の意味で使われている。「大麻」と書いて「あさ」もしくは「を(苧)」と読ませている場合もある。
おそらく、明治時代になって海外から亜麻や苧麻、マニラ麻が輸入されるようになり、それらの繊維と区別するために、「大麻」という語が定着したのだろう。なお、明治時代の統計書等を見ると、それまで「麻」であったものが、20年代以降になると「大麻」に変化している。
■(※3)免許制
古代から綿々と受け継がれてきた大麻栽培の技術。でも、戦後GHQに大麻=制限すべきものと判断されてしまって以降、大麻を栽培するには免許が必要になった。免許には栽培者向けと研究者向けの2種類があって、このうち栽培者向けの内容(抜粋)はこんな感じだ。
(1)大麻栽培者は以下の全てを満たす場合に免許を与える。申請者が単なる個人の趣味・趣向を唱えていたり、たとえ、業として栽培する場合であっても、大麻栽培を必要とする十分な合理性が無い場合は免許を与えない。
- 大麻栽培者として必要な経営的又は技術的能力を有すると認められること。
- 栽培目的、方法及び栽培によって得た繊維、種子の使用方法が、薬物乱用の助長等の保健衛生上の危害を発生させるおそれのないものであること。
- 大麻草、大麻の種子が盗取されるおそれがないような管理体制が準備されていること。
許可を出すのは都道府県知事で、栃木県の場合窓口は薬務課。違法な薬物によってさまざまな問題が起きているので、厳しく取り締まるのは仕方ないけど、文化の保護と両立するようにしてほしいなぁ。
■(※4)麻の有用性
日本の麻(大麻)が、日本文化にどれほど影響を与えているかは、マンガのなかでも紹介したとおり。種まきしてから90日で2~3mの高さになるなど成長が早く、茎、繊維、種などあますことなく利用可能なうえ、種から再生産が可能で、寒冷地や痩せ地を含めどこでも育つので、麻は生命力が強い特別な植物として認識されている。
麻子、麻由美、麻美……など、麻がつく女の子の名前も、すくすくまっすぐ育つ麻にちなんでいるのだろう……たぶん。
古い言い回しにも麻の付くものはたくさんあり、たとえば「麻のなかのよもぎ」(よもぎのように、ふにゃふにゃしたものでも、まっすぐなもののなかに入れば、曲がらずに育つ=善良な人と交われば善人になる)、快刀乱麻(乱麻はもつれた麻糸のこと。それを切れ味鋭い刀でスパッと切る=こじれた物事をすっきり解決すること)などがある。
文化と薬物関係のジレンマも、快刀乱麻してくれないかな。
■プロフィール
まんが:いちごとまるがおさん
田んぼに囲まれた田舎で創作活動を続ける、ひきこもりのおたく姉妹ユニット。栃木県佐野市在住。
姉の小菅慶子(代表)は1985年生まれ。グラフィックデザインから漫画、動画編集、3DCGまでやりたいことはなんでもやる。通信制高校の講師も。趣味はゲーム、ホラー映画、都市伝説。
監修:篠﨑茂雄
1965年、栃木県宇都宮市生まれ。大学・大学院で社会科教育学(地理学)を専攻したのち、県立高校の社会科教員を経て、現在は博物館に勤務。学芸員として、栃木県の伝統工芸、伝統芸能、生産生業、衣食住等生活文化全般(民俗)の調査研究、普及教育活動を行う。
著書は『栃木「地理・地名・地図」の謎』(じっぴコンパクト新書)、『栃木民俗探訪』(下野新聞社)など。
■作者よりひとこと
■今回のテーマ 「神事」
・いちごとまるがおさん
つい先日旅行で、島根県に行きました!
出雲大社はもちろん、いろんな神社を巡り、その際に神社で「お祓い」をされている方々がおり、その様子を見ることができました。
響き渡る太鼓の音に、祝詞を唱える声……
神聖な空気が神社一帯を包み、いつかわたしもお祓いを受けてみたいと、密かに心の中で思ったのでした。
・篠﨑茂雄
仕事柄、各地の神事を見て歩きます。そのなかで、祓いの時に用いる幣束などに麻、それも国産の麻が使用されているかどうかは気になるところ。生産者の方々の顔が目に浮かびます。