【栃木県民マンガ】負けるな!ギョーザランド!! 第8回 B級グルメが支える栃木のソース文化 まんが/いちごとまるがおさん 監修/篠﨑茂雄
「さのまる」が脇に差しているいもフライにポテト入り焼きそば、カタクリ餃子……。佐野、足利を中心に食べられているB級グルメは、独自のソース文化とともに世の中を席捲(?)していったのだ!
「英国にはソースってものがあるんだってよ。
ちょっくらつくってみっか」
……といったかどうかは知らないが
明治時代、試行錯誤を重ねて
独自のソースを完成させた足利の長沼三四郎。
以来、足利、佐野を中心とする両毛地域に
〝ソース文化圏〟ができあがる。
規模ではブル〇ックソースやオタ〇クソースといった
ナショナルブランドに劣るものの
味や地元への浸透度では決して引けを取らないぞ。
んじゃこれから、栃木のソースの世界にご案内!
マンガ中の記号(※1)などは、マンガのあとに出てくる用語解説「餃子国の歩き方」の番号と対応しています。
■(※1)いもフライ
「いも」は英語でポテト。だから「いもフライ=ポテトフライ」と思ったあなた、チコちゃんが許してもさのまるが許してくれねえと思う。なんたって、いまや全国区の人気を誇るゆるきゃら「さのまる」は、刀のかわりにいもフライを脇に差してんだから。
マンガで説明しているように、いもフライは佐野市周辺で栽培されていたじゃがいもや小麦を使って生み出されたオリジナルおやつ。それを竹串に差し、片手で食べられるようにして繊維工場(両毛地区では繊維産業が盛ん)の工員さんなどに提供したらバカ受け。いもフライを売るリヤカーには、たくさんの人が集まったらしいぞ。
地元のスーパーでも売られているので、見つけたら突撃だ!
■(※2)出流原弁天池湧水
関東で湧水といえば山梨県の忍野八海を思い浮かべる人も多いはず。たしかにあそこは富士山を背景に、神秘的な風景を見ることができるけんど、ちっと待ってほしい。佐野には忍野八海に勝るとも劣らない素晴らしい湧水の地・出流原弁天池があるのだ!
足尾山地に降った雨水が、きめの細かい葛生石灰岩地域で徹底的にろ過され、ミネラルをたっぷり含んだ湧水となる。この湧水は環境省が認定する名水百選のひとつに選ばれているし、栃木県指定天然記念物でもあるのだよ。
この水が佐野の名物・ソースの味を、一般的なソースと差別化するカギになっていることは間違いない。なんたって、ご飯にソースをかけるだけでおいしく食べられちゃうっていうんだから、まさに〝魔法のソース〟だね。
■(※3)いもフライの会
いもフライが佐野のソースを育て、佐野のソースがいもフライをさらにおいしくしたという、両者は切っても切れない深~い関係なのだ。また、B級グルメブームが町おこしにも大いに貢献している。
というわけで、早川食品が音頭をとって、「いもフライの会」が発足。作成している「いもフライマップ」には現在20店舗が名を連ねている。
店によって衣の食感やソースの味(店が独自にブレンドしたりしているらしい)が違うので、食べ比べしてみたら?
■(※4)ポテト入り焼きそば
佐野ではいもフライと地元のソースが両輪のように普及していったが、お隣の足利では、独自にソースを開発した月星食品が、新しい味であるソースを売るためにあれこれ模索。じゃがいもや長ネギのソース炒めを紹介したりしていたところに麺文化が入ってきて、一緒くたにしたら大ヒット!
ということで、足利の焼きそばにはじゃがいもが入っている。地元ではじゃがいも入りなのが当たり前なので、「焼きそば」を頼んだら、自動的に「ポテト入り焼きそば」が出てくるんだとか。
足利のお隣、桐生などにもリヤカーで売っていたので、「ポテト入り焼きそば」文化圏は群馬県にまで広がっているらしい。なんか、うれしいね。
■(※5)子供洋食
ゆでたじゃがいも、長ネギ、干しエビをソースで炒めて、青のりを振る……って、「ポテト入り焼きそばから麺をなくしただけじゃん」と思ったあなたは当たりです。っていうか、この子供洋食がポテト入り焼きそばのルーツだといわれているのだ。
もともとは醤油で味付けしていたらしいが、やがてウスターソースが使われるようになったのだけど、当時ソースってのはハイカラだったから、だれかが「洋食」と名付けたんだろうなぁ。
で、子どものおやつだったわけではなく、やはりこの地域の女工さんたちが主なお客さんだったらしい。じゃあ、「女工洋食」のほうがふさわしいって? いやいや、「女工」はジェンダー的に問題になりそうだし、『女工哀史』も彷彿とさせるから……。
え、『女工哀史』なんか知らないって? 昭和丸出しだって? 『女工哀史』は大正の話だよ!
■(※6)カタクリしゅうまい
(※7)ゼリーフライ
足利のご当地グルメ、カタクリシュウマイは、刻んだタマネギと片栗粉を練り合わせ、皮に包んで蒸したもの。これに地元のソースをかけていただく。「え、シュウマイにソース?」と思うかもしれないけれど、ソースがもちもちの食感にマッチして、なかなかイケるのだ。
埼玉の行田には、やはりソースで食べるゼリーフライがある。でもゼリーをフライにしたものではなく、おからにじゃがいも、にんじんなどを混ぜ合わせて揚げたもの。形が小判に似ていたから「銭フライ」と呼ばれていたものが、いつの間にか「ゼリー」に変わってしまったのだ。
B級グルメは、このあたりのソース文化に支えられているといっても過言ではない……はず。
■プロフィール
まんが:いちごとまるがおさん
田んぼに囲まれた田舎で創作活動を続ける、ひきこもりのおたく姉妹ユニット。栃木県佐野市在住。
姉の小菅慶子(代表)は1985年生まれ。グラフィックデザインから漫画、動画編集、3DCGまでやりたいことはなんでもやる。通信制高校の講師も。趣味はゲーム、ホラー映画、都市伝説。
監修:篠﨑茂雄
1965年、栃木県宇都宮市生まれ。大学・大学院で社会科教育学(地理学)を専攻したのち、県立高校の社会科教員を経て、現在は博物館に勤務。学芸員として、栃木県の伝統工芸、伝統芸能、生産生業、衣食住等生活文化全般(民俗)の調査研究、普及教育活動を行う。
著書は『栃木「地理・地名・地図」の謎』(じっぴコンパクト新書)、『栃木民
俗探訪』(下野新聞社)など。
■作者よりひとこと
■今回のテーマ 「 いとしのB級グルメ 」
・いちごとまるがおさん
やっぱりいもフライ
やはりイモフライですね!
子どものときに、冠婚葬祭や親戚の集まりで、大量買いしたイモフライがテーブルに並んでいたのを思い出しました。
今回、取材させていただいた早川食品さん、月星食品さんのソースも購入して毎日交互に食べるほど美味しかったです!
・篠﨑茂雄
じゃがいも入りのうどん
夏休みに父の田舎(下野市)に行くと、決まって出でてきたのがジャガイモがごろごろと入ったうどん。ジャガイモの味噌汁にうどんを入れて食べるといったイメージ。子どものころは、これが嫌でたまらなかったのですが、うどんはおばあちゃんの手打ち。いまにして思えば最高級のおもてなしだったようです。イモフライやポテト入りやきそばを見てふと懐かしく思い出しました。
この味は、父に伝授され、いまでもたまに我が家の食卓にのぼります。B級グルメというよりは家庭の味なのかもしれません。