エッセイ

辻堂ホームズ子育て事件簿
2022年7月×日 言葉が増え始めた娘が、「ゲラ」という単語を覚えた。……という話はいったん脇に置いて、今日は子どもの睡眠について書いてみたいと思う。今から2年近く前、娘が生後7か月頃のこと。私の祖母と母が、自宅に遊びにきた。女4代揃って女子会(?)をしていると、ずり這いをして床を動き回っていた娘がぐずり始めた。お腹…
武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
おなかは急に痛くなるもの 先日、胃腸炎になった。大の大人が腹を擦りながら四日間ほどベッドで寝込む状況というのは非常にテンションが下がるものだったので、こうなったらエッセイのネタにしてやる! と己を奮い立たせることにした。ちなみに大人になってから胃腸炎になったのは二年ぶり五回目だった。新鋭強豪校の甲子園出場くらいの頻度…
はらだみずき『太陽と月 サッカー・ドリーム』
『太陽と月』が自信作である理由 小説家は、自分にしか書けない作品を手がけたいと願うものです。そしてときに、「この話を書きなさい」と小説の神様に耳打ちされたような心持ちを抱くのです(あくまで僕の場合ですが)。自分の人生においてフックとなる体験は、ああ、このストーリーを書くためだったのか、と後になって思い至ります。新刊の『
手嶋龍一『武漢コンフィデンシャル』
秘色の物語を紡いで 『武漢コンフィデンシャル』の装丁も鈴木成一デザイン室が手がけてくださった。鈴木さんはいつも決まって「まずゲラを拝読してから――」と言い、作品を読み終わるまで引き受けてくれるのか分からない。著者にとって、この人が最初の関門なのである。本作は長江流域に広がる要衝、武漢が主な舞台である。近代中国の黎明を告
ハクマン第88回
「小栗くん童貞だったことある?」これはあまりにも童貞の気持ちがわかっていない、小栗旬に対して発せられた名言である。確かに小栗旬ともなれば生まれた時から童貞じゃなかった可能性は十分にある。しかし、我々は皆生まれる時に女性器を通過しているのだ。しかも、体の一部を入ったかと思ったら出す、どっちつかずな態度を取り続けた上に「や
長月天音『ほどなく、お別れです 思い出の箱』
変わるものと、変わらないもの 東京の外れに暮らす私は、時々無性に東京スカイツリーが恋しくなる。いてもたってもいられなくなり、つい足を運んでしまう。展望デッキまで上ることもあれば、下から見上げて満足するだけのこともある。スカイツリー周辺が舞台の『ほどなく、お別れです』の執筆中は、近隣を歩き回って作中の人物の気持ちを想像す
作家を作った言葉〔第7回〕小佐野彈
 歌人としてデビューし、その後小説も書くようになったきっかけ──つまり僕の文筆家としての原点が、俵万智さんの第三歌集『チョコレート革命』であることは、これまでにさまざまな媒体で話しまくってきたし、書きまくってきた。でも、どれだけ言葉を尽くしても語り切れないほど、この一冊の本が僕の人生に及ぼした影響は大きい。俵万智さんの
# BOOK LOVER*第7回* 薄井シンシア
 フィリピンの華僑の家庭で育ち、日本の大学に進学。結婚後は、夫の仕事の都合でさまざまな国に移住してきた私は、どこへ行ってもずっとマイノリティでした。マイノリティってやっぱり生きづらいんです。それぞれの社会の主流派と常に異なるのですから、自分の中に信念がないとやっていけない。『アラバマ物語』はそんな私にとって人生の指針と
ハクマン第87回
こう見えて私も日本漫画家協会の一員である。そう書いたところで今年度の会費を払っていないことに気づいて払いに行った、危うく一員じゃなくなるところであった。しかし漫画家協会の会費の支払い期日は4月1日から3月31日までなのだ。つまり今年度の会費は今年度中に払えば良いというガバガバビッチ締め切りなのである。さすが、漫画家協会
辻堂ホームズ子育て事件簿
2022年6月×日 「毎回俺の名言から始まる子育てエッセイってどうかな?」と、夫が突然提案してきた。何を言っているんだ。却下。どうも夫、そういうところがある。自分たちの日常がこうして発信されているのが面白いらしい。私にとっては喜ばしいことだ。家族のことを書く仕事は、家族の応援なしには実現しえないのだから。
武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
おめめの天敵 コンタクトレンズがこわい。これは非常に切実な悩みである。コンタクトレンズがとにかくこわいのだ。だって、目を触ってる! コンタクトレンズをつけるという行為は、先端恐怖症の私にはとてもじゃないが耐え難いものなのである。正直に言うと、私はコンタクトレンズから逃げて来た。大学の卒業式も裸眼。両目0.2のぼや...
ハクマン第86回
私はこのようなコラムや漫画など、いわゆるエッセイ系をクソほど書いている。最近エッセイ業界に激震が走る出来事があった。詳細は省く、というか怖過ぎて書けないが、エッセイ漫画のネタにされていた作者の親族側が実はすごく嫌だった、という話である。しかしこのエッセイに書かれた側が激おこ脱糞丸という現象はそこまで珍しくなく、前までジ
青柳碧人『ナゾトキ・ジパング』
ジパング誕生秘話 元号が令和に変わる少し前のこと。仕事場の本棚に並ぶエラリー・クイーンの「国名シリーズ」の背表紙を眺めていて、「旧国名シリーズ」というアイディアが浮かんだ。旧国名というのは、伊勢とか備中とか、かつて日本で使われていた、歴史の教科書で見るような地名。『ローマ帽子の謎』『フランス白粉の謎』のように、『伊勢え
作家を作った言葉〔第6回〕三浦しをん
 小説って本当に自由ですごいものなんだなと痛感した最初の一冊は、丸山健二の『水の家族』だ。中学生のころに読み、だからといって「私も小説家になりたい!」とはまったく思わず、その後もボーッと日々を過ごしていたけれど、小説という表現方法の奥深さ、魅力に気づかされ、ますます読書大好き人間と化すきっかけになったのはたしかだ。長じ
降田 天『さんず』
まえがきのようなもの この作品を「どのように」PRするかについて、担当者と何度も話し合ってきました。本作は自殺幇助業者という架空の業者を扱ったフィクションであり、我々は根っからのフィクション作家です。不道徳なこと、不謹慎なことを含む非現実の出来事を頭の中で想像し、作品として出力する仕事をしています。とはいえ、作品ごとに
ハクマン第85回
恐ろしいことにまた締め切りが近づいているのだが、当然のように書くことがない。あまりにも書くことがなさすぎて何かネタになるようなことがないかとグーグノレで「漫画家」と検索してしまった。漫画家が書くことがなさすぎて「漫画家」でググってしまうというのは、セックスのことを知りたすぎて辞書でセックスと引いた上に蛍光マーカーでチェ
# BOOK LOVER*第6回* 広末涼子
 人生で悩んでいた時期は、いつも哲学の本を手に取っていた気がします。高校・大学時代は常にドラマや映画の台本を3、4冊持ち歩き、それぞれの物語に感情移入する日々でした。だからこそ、心をクールダウンさせてくれる何かを無意識に求めていたのかもしれません。人の心を揺さぶるストーリーの対極にあって、自分が言葉にできない感情に形を
辻堂ホームズ子育て事件簿
2022年5月×日 辻堂ホームズ子育て事件簿、などというタイトルをつけているからには、たまにはミステリっぽいことを書かねばなるまい。先日、洗濯機を回そうとして、思いのほか中身がいっぱいであることに気がついた。洗濯物の量がやけに多く、蓋すれすれまで溜まっている。「昨日天気が悪くて洗濯しなかったからかなぁ、干すの面倒だな…