ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第141回
漫画を描き続けて15年。
作家として成功したと
言えば嘘になる。
読者のつぶやきで気が付いたのだが、私は今年の10月でデビュー15周年らしい。
10周年の時はさすがに覚えていたし、祝う催事もやったが、15周年に関しては本当に気づかず、指摘されなければこのままスルーしていただろう。もはや自分のことに関しては他人の方がしっかり覚えている段階にきている。
これは、私も作者以上に作品や作者のことに詳しい不気味なファンがつく身分になりましたよ、という自慢ではない。
「15周年」といえば聞こえがいいが、これは15歳年を取ったという意味である、「50周年」だって快挙ではあるが「信長だったら今年死にますね」とも言えるのだ。
老化現象により普通に昔のことが覚えられなくなっただけであり、しかもずっと同じことの繰り返しなため、今が何周目かなどは特に覚えられないのだ。
特に途中で平成から令和に変わってしまったため、いよいよ自分がデビュー何年目かわからなくなってきた。
自分の漫画家歴を割り出そうと思ったら「今は平成で言ったら何年?」など、平成から抜け出せてない中年丸出しの質問をしなければならない。
漫画家といえば、職業の中ではクリエイティブな方ではあると思うが「製造業」であることには変わりない。
毎回何を作るか考えるところから始めなければいけないという違いはあるが、チーズケーキを作るかスチールウールを原料にした創作モンブランを作るかの差であり「ケーキ」を作ることには変わりないのだ。
漫画家も「漫画を作る」という目的は毎回同じであり、しかもページ数が決まっていたり「決まったキャラを出す」「前回からつながった話を描く」など、結構縛りは多いのだ。
それらを全て無視した創作スイーツ漫画を石板に彫って提出することも不可能ではないが、商業漫画界の懐はまだそれを受け取れるほど広くはない。
作るものが同じなため、工程も毎回同じであり、いつも話を考えてネームを描くところから始まる「彫りやすい石を見つける」など、違う工程が入ることは滅多にないし「今回はあえてトーンから貼ってみるか」など、気分転換すら許されない。
つまり、完全なルーティンであり、さらに締切りも存在する。
よって、工場で毎回具が違うサンドイッチを納期までに作り続けていたら15年経っていたみたいな話であり、記憶がどんどん曖昧になっていくのだ。
だが事実として、漫画を描き続けて15年経っており、その間作家として成功したと言えば嘘になる。
貴重な20代の半分、そして30代の全てを漫画に費やし、気づいたら40代になっていたのである。
「42歳厄年!」という鳥肌ギャグに対し、笑いより先に「年下じゃん…」が来るまであと少しであり、最近他人が撮った私の写真を見たら羅生門にいるタイプのババアが写っていた。
ただ、これに関しては後悔があるわけではないし、まして時間が戻ってほしいとも思わない。
何故なら漫画を描こうが描くまいが40歳にはなるからだ。
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