青春ゾンビを救う青春文学20選 

「青春」に思い残したことが多すぎる“青春ゾンビ”を救う、青春小説。さまざまな形での青春が追体験できる作品を集めました。

「青春」、それは長い長い人生の中で、未熟ながらも、若さに満ちあふれた時代のことを指し示す言葉です。部活に打ち込む、恋愛に胸をときめかせる、友人と夢を語り合う。そんな学生時代を過ごした方は、間違いなく青春を謳歌していたといえるでしょう。

その一方で、青春時代に思い残したことが多すぎるゆえに、生ける屍となった、通称“青春ゾンビ”は、今まさに青春を満喫している学生カップルに後悔と嫉妬の念を抱くことも珍しくありません。自分が青春を浪費してしまったこと、もう得られないことを悔やむ日々を送っているのです。

とはいえ、過ぎた時間はもう取り戻せないという事実は覆りませんが、青春ゾンビと化してしまった人を救う方法はあります。それは、「青春を描いた文学=青春文学を読み、今からでも青春を追体験すること」です。青春文学は、青春ゾンビたちに、失われし青春時代を取り戻させ、その後悔から解き放つ力を持っています。そんな青春小説を読み、後悔から解放されるのは今からでも遅くありません。

今回はそんな青春ゾンビを救う青春文学を20冊、前後編に分けて紹介します。

 

1.横道世之介/吉田修一

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1987年、長崎から大学進学のために上京した横道世之介よこみちよのすけ。お人好しな性格から、流されるままにサンバサークルに入部したり、入学式で出会った友人に金を貸したり、世間知らずのお嬢様に振り回されたり……そうして、さまざまな人と関わる1年を描いた作品です。決して大きな事件は起きず、世之介自身も過剰な自意識を持たない、どこにでもいるような大学生です。そんな世之介が過ごす何でもない毎日こそが実はかけがえのないものだったと気づかせてくれます。

また、本作品は世之介の姿を描いた1987年と、20年後の周囲の人々による世之介についての回想が交錯する、といった構成で描かれています。当時、関わった人が、どのような思いを彼に対して抱いていたのか、そして20年後、彼はどんな運命をたどったのか。その結末に驚かされるはず。

 

2.凍りのくじら/辻村深月

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名門進学校に通う高校2年生の理帆子。彼女はどんなグループの人間ともうまくつき合えるものの、それは居場所がないのと同じでした。その場に最適な言葉を選び、ときに相手を見下していた理帆子はある日、「写真を撮らせてほしい」という青年、別所に出会います。周囲から孤立し、心の拠り所が読書だけだった理帆子は、別所と関わるうち、少しずつ変化していきます。

父親の影響から藤子・F・不二雄を尊敬する理帆子は、作中でドラえもんのひみつ道具を例えに使うほど。それは自らを揶揄する場面で「ゆらゆらと漂う私は、『どこでもドア』を持ってるみたいだと思うことがある。」と、また自らの孤独を受け入れる様子を「私は一人が怖い。誰かと生きていきたい。必要とされたいし、必要としたい。今、『テキオー灯』の光を浴びたばかりだった」などと、どこにでも行ける「どこでもドア」や、あらゆる環境に適応させる力を持つ「テキオー灯」などのひみつ道具をうまく比喩に使いながら描かれています。「自分は必要とされているのだろうか」という苦悩は、誰もが一度は抱えたことはあるのではないでしょうか。

 

3.もういちど生まれる/朝井リョウ

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恋人がいるのに、親友から好意を寄せられている汐梨。平凡な日常に飽き飽きしている翔多。絵を描きながら母を想う美大生の新。美人で器用な双子の姉にコンプレックスを持つ梢。才能に限界を感じながらダンス専門学校へ通う遙。恋や将来への不安に悩む5人の大学生とその仲間たちが踏み出す最初の一歩とは?

子どもほど無邪気ではない。とはいえ大人と言えるほど誰にも頼らずに生きているわけでもない。高校生よりもできることが多くなったはずが、現実と夢の乖離を知ることとなって苦悩する。そんなどこにでもいるような大学生5人の中に、読者は自分の姿を探すことに。期待通りのことが起きないか期待したり、才能を持つ人を羨んだり憎々しく思ったり、青春時代特有の繊細な感情は誰しもが持っていたはず。あの頃のみずみずしさに、大人になった今、向き合ってみては。

 

4.君の膵臓をたべたい/住野よる

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ある日、病院で、主人公である“僕”が拾ったのは、「共病文庫」という名の文庫本でした。それはクラスメイトの山内桜良やまうちさくらが綴っていた秘密の日記帳であり、彼女が膵臓の病気で余命1年という事実を知ります。他人と関わりを持つことを避けてきた“僕”と天真爛漫な桜良。まったく性格が異なる2人はクラスメイトの誰も知らない桜良の秘密を共有することで、距離を縮めていきます。

主人公の“僕”は桜良と出会う前まで、他人との関係を築こうとしない「自己完結型」として生きていました。しかし表情豊かでクラスの人気者でもある桜良に半ば強引に「死ぬまでにしたいこと」につき合わされます。

作品の中で、“僕”の名前は後半まで明かされません。それもはっきりとした名前ではなく、【秘密を知っているクラスメイト】くん、【根暗そうなクラスメイト】くんと、桜良にとって“僕”がどのような存在であるのかを指し示す形で表現されています。その「呼び方」は、ふたりの距離感を表すもの。恋人ではないけど、特別な存在になっていくふたりの距離に注目してはいかがでしょうか。2017年7月28日には実写映画の公開も予定されています。こちらは大人になった“僕”と桜良の親友、恭子のその後が描かれており、また別の感動を味わえることでしょう。

 

5.ムーン・パレス/ポール・オースター

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コロンビア大学の学生だった主人公、M・S・フォッグ。彼は天涯孤独の身になったことをきっかけに、生きる意味を見失うことに。さらに「自分がなすべき何かとは何もしないこと」という結論から、貯金が尽きかけても助けを求めることすらも放棄します。やがてフォッグはセントラルパークのゴミ箱を漁る生活を余儀なくされるものの、さまざまな人に手を差し伸べられて再び生きていこうと決意します。そんな矢先、奇妙な老人のもとで住み込みの仕事をはじめたフォッグは、素性のわからなかった自分の父親と祖父の過去を知っていくのでした。

フォッグは家族や貯金をはじめ、さまざまなものを失い続けます。喪失を経た彼はやがて「自分とは何か」、「生きるとは何か」という疑問にたどり着きます。月の満ち欠けのように、プラスとマイナスを繰り返しながら葛藤するフォッグの姿は、まさに青春時代を駆け抜ける若者。「何にだってなれる」と思い込んでしまう素直さと、自分の欠点を認めずに失敗を繰り返してしまう青さに読者はどこか共感してしまうのです。

 

6.色即ぜねれいしょん/みうらじゅん

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1970年代の京都。主人公、乾純は彼女無しで、もちろん童貞。さらにヤンキーや体育会系たちが幅を利かせる学校で、冴えない日々を送っていました。そんな純の運命は、友達から聞かされた「フリーセックスの島がある」という情報をきっかけに大きく動き始めます。島を訪れた純と友達を待ち受けるものとは……?

取り立てて容姿が優れているわけでも、勉強ができるわけでもない。ボブ・ディランに憧れてギターを弾くものの、何かに反抗する勇気も持っていない。好きな女の子への告白も失敗に終わった純は、島での経験をもとに大きく成長します。クラスでは目立たない文科系男子が、クライマックスで学園祭のステージに立つことに。その純の勇気に、思わずエールを送りたくなってしまうはず。男子高校生特有のフラストレーションが爆発した作品で、まぶしい夏休みを追体験できます。

 

7.ショートソング/枡野浩一

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ハーフの美男子なのにいまだチェリーボーイの克夫。憧れの先輩、舞子に訳もわからず連れて行かれたのは短歌の歌会。生まれて初めて詠んだ作品を、プレイボーイで天才歌人の伊賀に評価されたことをきっかけに、克夫の騒々しい日々が始まろうとしていたのでした。

「短歌なチェリーボーイ」の克夫、「短歌なプレイボーイ」の伊賀という対照的なふたりの男がタイトルの通り「ショートソング=短歌」を通じ、互いに影響し合っていく様子が描かれています。そしてなんといっても、キャラがまったく異なるふたりをはじめ、個性豊かなキャラクターが生き生きとテンポ良く詠んだ作品の数々が魅力。読めばきっと、あなたも短歌が詠みたくなるはず。

 

8.ウォールフラワー/スティーヴン・チョボウスキー

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16歳の少年、チャーリーはいつも人の輪に入れない“壁の花(ウォールフラワー)”として、孤独な学校生活を送っていました。いつものようにたったひとりで学校のフットボールの試合を観に行ったチャーリーは、学校の有名人、パトリックとその義理の妹、サムと出会います。ふたりと親しくなっていくうち、チャーリーの学校生活は変わり始めます。

一般的な学校の中でしばしば発生する序列、いわゆる“スクールカースト”をありありと描いたこの作品において、チャーリーはその中でも最下層に位置づけられていました。しかし自由に生きるパトリックとサムはカーストにとらわれない特別席にいたのです。チャーリーはふたりによって、初めて味わう刺激的な日々を謳歌しますが、やがて「実の叔母に性的虐待を受けていた」、「その叔母がチャーリーへのプレゼントを取りに行こうとしたときに交通事故で亡くなったこと」という過去の出来事が彼を傷つけるように。友情や初恋を経験し、傷つきながらも自分の感情と向き合っていくチャーリー。誰もが経験したであろう、ヒリヒリとした青春の痛みを思い出させてくれる作品です。

 

9.いなくなれ、群青/河野裕

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「なくしたものを見つければ、元いた場所に帰ることができる」という「階段島」。代わり映えのない孤立した島での日々を受け入れていた悲観主義者の七草は、かつての友人で理想主義者の少女、真辺由宇と再会を果たします。真っ直ぐなまでに島の存在を疑問視する真辺とともに、やがて七草は階段島に秘められた謎を知るのでした。

「捨てられた者たちの島」である階段島にやってきた人々は、自らが誰によって捨てられたのか、何をなくしてしまったのかもわからないまま生きています。そんな外界から一切の交流がない階段島において、真辺を帰す方法を探す七草と、同じく階段島にやってきた少年、大地を元いた場所へ帰そうとする真辺は、島の存在に疑問を抱かない周囲からしてみれば明らかに“異物”でしかありません。それでも諦めないふたりに突きつけられる真相。すべての謎が解けたとき、あなたもかつての青春時代を思い出すことになるでしょう。

 

10.いちご同盟/三田誠広

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中学3年生で15歳の良一は、同年代で自殺した少年との共通点を探すなど、人生に厭世観を持っていました。その理由は、音楽科に進む夢をピアノ講師の母親に反対されているからです。そんな良一はある日、同級生で野球部のエースである徹也に出会います。徹也は自身の幼馴染み、直美と良一を引き合わせますが、直美は不治の病を患っているのでした。

タイトルの『いちご同盟』とは果物の苺ではなく、登場人物たちの年齢、15(いちご)のこと。当初は将来に悩むあまり自殺まで考えていた良一でしたが、家族とのしがらみを抱えながら生きる徹也と、回復の見込みがない病に侵されながらも生きることを諦めない直美の姿に影響され、人生観が少しずつ変わっていくのです。中学生から高校生へと移り変わる人生の節目に対し、不安で揺れ動く繊細な15歳。それでも今後待ち受ける困難に立ち向かう強さを養おうとする彼らから、勇気と励ましをもらえるかもしれません。

 

 

<後編>に続く

初出:P+D MAGAZINE(2017/03/20)

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