文学的「今日は何の日?」【2/17~2/23】
あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
2月17日から始まる1週間を見てみましょう。
2月17日
マッチョなヘミングウェイ、雨季が迫るアフリカで狩りを楽しむ
釣りや狩り、ボクシングなど、マッチョなスポーツをこよなく愛したアーネスト・ヘミングウェイ。ノンフィクション作品『アフリカの緑の丘』には、本格的な雨季が来る前にダンザニア南部の町ハンデニーに移動したいこと、それには遅くとも2月17日までに現在の狩猟地を出発したいこと、などが書かれています。クーズー(かもしかの一種)狩りを楽しんでいた彼は、通りかかったトラックの一群のために獲物を逃して悔しがったり、そのトラック群の男が無名時代のヘミングウェイがドイツの雑誌で発表した詩を読んでいたことを知って気をよくしたりと、作家の素顔を覗くことができる作品です。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B000JAUMU4/
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2月18日
『ハックルベリー・フィンの冒険』がアメリカで出版される
1885年の今日、マーク・トウェインの4作目の小説『ハックルベリー・フィンの冒険』がアメリカで出版されました。前年12月のカナダでの刊行に次ぐものです。同じ著者の『トム・ソーヤーの冒険』で、トムと共に盗賊が洞窟に隠しておいた金を見つけて大金持ちになったハックは、ダグラス夫人に引き取られ家の中で暮らすようになりますが、行方不明だった父が大金に釣られて強引に連れ去ってしまいます……。かのヘミングウェイが「あらゆる現代のアメリカ文学は『ハックルベリー・フィンの冒険』というマーク・トウェインの一篇の作品から来ている」と絶賛した、アメリカ文学の金字塔です。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4003231155/
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2月19日
円地文子『食卓のない家』のモデルとなった「あさま山荘事件」が起こる
1972年のこの日、連合赤軍メンバー5名が浅間山荘管理人の妻を人質に取って立てこもる「あさま山荘事件」が発生しました。雪山での警察と犯人グループの攻防や鉄球による山荘破壊など、一部始終がテレビで実況中継されたこの事件を題材に、円地文子が書き上げたのが『食卓のない家』です。主人公・鬼童子信之は、長男が山荘立てこもりと内ゲバ殺人で逮捕されます。息子の仲間たちの親は責任をとって職を辞め、あるいは自死する者も出ますが、鬼童子は頑なに「成年に達した息子の行為には責任を取らない」姿勢を貫き、一家離散の危機に見舞われます。家族とは何かを鋭く問うた作品です。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4643970332/
2月20日
小川洋子『博士の愛した数式』の主人公の誕生日
交通事故によって脳の機能の一部を失い、80分間しか記憶がもたない数学者・博士と、通いの家政婦でシングルマザーの私とその息子・ルート。私の誕生日「220」と、博士の腕時計に刻まれた「学長賞No.284」が友愛数(お互いに自分自身を除く約数の和が相手の数字になる)であること、博士とルート(と作者)がファンであるプロ野球・阪神タイガースの選手の背番号など、博士が愛する数字を通してあたたかな交流を持ちます。無機質な数字が持つ崇高な美しさに、心ゆさぶられる物語。本屋大賞の第1回受賞作であり、小川洋子の代表作として、いつまでも愛される名作です。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4101215235/
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2月21日
清少納言、中宮定子のお供で関白・藤原道隆主催の仏事に参加
『枕草子』の記述によれば、正暦5年のこの日、時の関白・藤原道隆が父・兼家の邸宅内にある法興院積善寺で一切経供養の仏事を盛大に開催しました。道隆の娘である中宮定子も参列し、定子に仕える女房であった清少納言も同行しています。『枕草子』をもとに書かれた冲方丁の歴史小説『はなとゆめ』では、この仏事参列のため、先立つ2月6日に中宮や女房たちがいっせいに宮中から退出したときに起きたトラブルと、その対応で中宮が見せた思いやりに感動する清少納言を描きました。しかし、史実ではこの仏事は2月20日開催。清少納言の誤記ではないかといわれています。
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09658018
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2月22日
源家最後の将軍・源実朝が3年ぶりに鶴岡八幡宮に参拝
建暦元年のこの日、太宰治の歴史小説『右大臣実朝』において、鎌倉幕府の第三代将軍・源実朝が鎌倉の鶴岳宮(鶴岡八幡宮)に参拝しました。実朝は承元2年に疱瘡(天然痘)を患い、それからは自身で鶴岳宮での行事に赴かず代参を立てていたため、これが3年ぶりの参拝でした。12歳から近習として実朝に仕え、その没後に出家した「私」の20年目の回想に、軟弱な文人とみられがちだった実朝の強く気高い精神性を浮かび上がらせた傑作。滅びを予感しながらも芸術への愛を貫き、平然と雅の道を歩む実朝に、敗戦に向かう日本と己の理想を重ねた、太宰治中期を代表する作品です。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4101006105/
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2月23日
大人気オペラ『蝶々夫人』の父? 元佐賀藩士・伊東鼎之助が斬殺される
明治7年のこの日、市川森一の『蝶々さん』において、元佐賀藩士の伊東鼎之助が元諫早藩士3名によって斬殺されました。かねてからの許嫁・森村やえと祝言をあげた翌日のことでした。江藤新平の書生になることを熱望し、佐賀の乱に参加した鼎之助でしたが、すれ違い続きで対面が叶わないままの横死でした。若い夫婦のたった一度の契りから生まれた娘・お蝶は「蝶々さん」とよばれ、優しく、賢く、美しく育ちます。母と祖母をコレラで亡くし、長崎・丸山遊郭の女将の養女となって学業に励みますが……。諫早出身の著者が、プッチーニのオペラ『蝶々夫人』のモデルになったとされる女性の真の姿に迫った長編小説です。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4062770253/
初出:P+D MAGAZINE(2020/02/17)