【先取りベストセラーランキング】現代のターザンが大統領候補者の醜聞をめぐる事件を追う! ブックレビューfromNY<第54回>
NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの54回目。今回は、大統領候補者の醜聞テープをめぐる失踪・誘拐事件を、かつて森に放置されて記憶を失い、小さなターザンと呼ばれた男が追う小説を紹介します。
<第54回>現代のターザンが追った高校生の失踪・誘拐事件、そして大統領候補者の醜聞テープ
The Boy from the Woods/ by Harlan Coben
Grand Central, 2020.371ページ. US$29.00
今月のベストセラー事情
今月の「ニューヨーク・タイムズ ベストセラー事情」は、ハードカバー・フィクション部門のトップ10 (2020 年5月3日の週)[1]を紹介する。
1.Where the Crawdads Sing
By Delia Owens
Putnam
1969年、ノースカロライナ州の静かな町でチェース・アンドリュースの死体が発見された時、地元の人たちは、湿地帯で一人暮らしをし、「湿地帯の娘」と呼ばれていた若い女性を犯人だと思った。
(ベストセラー85週目)
2.Masked Prey
By john Sandford
Putnam
ある米国上院議員の娘がインターネットを操作中に、偶然自分だけでなく、他の政治家たちの子弟の写真が掲載されているブログを発見した。そこには写っている人物の名前や政治的な暴言が掲載され、有力政治家の子弟の命を狙うような危険な意図が感じられた。FBIは通報を受けたが、実際に犯罪が行われたわけでもないので手の施しようがなかった。政治家たちは、ルーカス・ダベンポートに助けを求めた。「獲物」シリーズ30作目。
(ベストセラー初登場)
3.American Dirt
By Jeanine Cummins
Flatiron
メキシコのアカプルコで書店を経営していたリディアは、夫と一人息子ルカと幸せに暮らしていた。しかし、ジャーナリストの夫が地元の麻薬組織(カルテル)の首領ハビエルについての記事を書いたため、夫を含む親族16人を殺害された。生き残ったリディアとルカはハビエルの魔の手を逃れて、中南米難民たちと共にメキシコを北上し、国境を越えてアメリカ合衆国に不法入国した。
(ベストセラー13週目)
4.The Silent Patient
By Alex Michaelides
Celadon
アリシア・ベレンソンは有名な画家で、今を時めくファッション・フォトグラファーの夫を持ち、ロンドンの一等地に住み、幸せの絶頂のように見えた。しかしある夜、帰宅した夫ガブリエルの顔面に、アリシアは5発の銃弾を撃ち込んだ。そしてその後、彼女は一言も話さなくなった。犯罪心理療法士のセオ・フェイバーはアリシアの治療をすることになった。
(ベストセラー46週目)
5.The Boy from the Woods
By Harlan Coben
Grand Central
ワイルドと呼ばれている男は、人々にとっても彼自身にとっても謎だった。34年前、米国ニュージャージー州の森の中で発見された時、彼は推定年齢6-8歳、言葉を話し、読み書きもできたが、以前の記憶を失っていた。警察は男の子の家族を探したが、手掛かりは何もなかった。そして34年後の今、彼は森の中で1人で暮らすことを好み、少数の人としか交わらなかった。地元の女子高校生が行方不明になった時、彼はユニークなスキルを使って、彼女を探しだすことを頼まれた……。
(ベストセラー5週目)
6.The Glass Hotel
By Emily St. John Mandel
Knopf
1人の女性がモーリタニア沖のコンテナ船から消息を絶ち、ニューヨークでは大規模な投資詐欺の企みが破綻した。そして10数年後……。
(ベストセラー4週目)
7.In Five Years
By Rebecca Serle
Atria
マンハッタンの弁護士ダニー・コーハンは、綿密な人生設計を立て、5年後の自分に関してはっきりとしたビジョンを持っていた。恋人からのプロポーズを受けた日、彼女は着々と5年後の自分に向かって人生の駒を進めていると満足して眠りについた。しかしその夜、突然目覚めたダニーは見知らぬ部屋の見知らぬベッドで、見知らぬ男と寝ていた。左手の薬指には見覚えのない指輪がはまっていた。時は2025年12月15日、5年後だった。パニックに陥ったダニーだったが、また突然目覚め、2020年12月15日に戻っていた……。
(ベストセラー6週目)
8.Redhead by the Side of the Road
By Anne Tyler
Knopf
アパートメントビルの管理人をしているミカ・モーティマーは几帳面な生活習慣を保っていた。しかし、ある女友達が、住んでいる家から立ち退きを通告されたと彼に告げ、彼の息子を名乗るティーンエイジャーが突然出現したことで、ミカの生活はすっかり狂ってしまった……。
(ベストセラー2週目)
9.The Giver of Stars
By Jojo Moyes
Pamela Dorman/Viking
1930年代の終わり頃、アリス・ライトは衝動的に裕福なアメリカ人のベネット・ヴァンクリーブとの結婚を決意して英国を離れ、ケンタッキー州で結婚生活を始めた。冒険と同時に現実からの逃避のつもりの結婚だったが、夫は妻を顧みず、威圧的な父親の言いなりで、全くの期待外れだった。そんなアリスは、町で厄介者扱いされているマージェリ・オヘアと知り合った。マージェリの貧しい人々へ本を届ける移動図書館の活動に賛同したアリスやそのほかの女性たちは、周囲の反対や妨害にもかかわらず活動を続け、女性の自由や友情に目覚めていった。実話にインスパイアされて書かれた小説。
(ベストセラー27週目)
10.Valentine
By Elizabeth Wetmore
Harper
1976年テキサス州オデッサは石油ブームに沸いていた。バレンタインデーの夜、14歳の少女が油田付近で襲われてひどい怪我を負うという事件が起きたことをきっかけに、人々の対立が始まった……。
(ベストセラー3週目)
ベストセラー85週目になる“Where the Crawdads Sing”は相変わらずダントツの強さで1位の座を保っている。46週目の“The Silent Patient”、27週目の“The Giver of Stars”も健闘している。新コロナウイルスの蔓延で、米国、特にニューヨーク州や周辺のニュージャージー州、コネチカット州では多くの人が外出を控え、自宅に籠っている。本を読む時間ができ、新作だけでなく昨年評判になった小説も再び売れ始めているのだろうか? 先週レビューをした“American Dirt”は、発売当初の一部の酷評にもかかわらず、3位の地位を保ったまま13週目に入っている。
今月は、ハーラン・コーベンの新作“The Boy from the Woods”を取り上げたいと思う。
[1]“A version of this list appears in the May 3, 2020 issue of The New York Times Book Review. Rankings reflect sales for the week ending April 18, 2020.” (このベストセラー・リストは2020年5月3日のニューヨーク・タイムズ紙ブックレビュー欄に掲載。リストは2020年4月18日で終わる週の売り上げをもとに作成されている。)
- 1
- 2