文学的「今日は何の日?」【10/19~10/25】
あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
10月19日から始まる1週間を見てみましょう。
10月19日
結婚を決意した澪を源斉が訪ねる――高田郁『みをつくし料理帖 心星ひとつ』
生まれ育った大坂の食文化との違いに戸惑いながら、江戸の元飯田町(現在の千代田区九段北)の料理屋・つる家で、料理人として成長していくひとりの女性・澪を描く、高田郁の『みをつくし料理帖』シリーズ。文化12年秋、澪に縁談が持ち上がります。相手は格式の高い家柄の武士で、嫁ぐにはつる家を辞めて武家奉公をし、作法や教養を身に着けなくてはなりません。澪がその話を受け入れて数日後の10月19日夜、常連の町医者・永田源斉がつる家を訪れます。祝いを述べると食事もせずに立ち去るその様子から、つる家の店主・種市は、源斉の秘めた心に気づくのでした。それぞれの思いが切ない、雨の一夜の出来事です。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4758435847/
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10月20日
正木敬之が没し、治療場が閉鎖される――夢野久作『ドグラ・マグラ』
日本探偵小説における「三大奇書」のひとつとして、根強いファンを持つ、夢野久作の『ドグラ・マグラ』において、大正15年10月20日、九州帝国大学精神病科教授・正木敬之が没しました。これに伴い彼が創設した「狂人の解放治療」の治療場は閉鎖され、およそ1か月後、眠ったままここで治療を受けていた〈私〉は目を覚まします。やがてここが九州帝国大学精神病科の病室だと知らされた〈私〉は、自分が精神異常を利用した犯罪に巻き込まれて記憶を失っており、その「失われた記憶」が事件解決の鍵となることを告げられます。自らの記憶に関わる資料を読んで事件の全貌に近づくほどに、おのれがわからなくなっていくという、奇書中の奇書。この機に手に取ってみてはいかがでしょうか。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4041366038/
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10月21日
ヘミングウェイ不朽の名作『誰がために鐘は鳴る』が刊行される
行動する作家であったアーネスト・ヘミングウェイは、1936年に勃発したスペイン内戦においても、「反ファシズム」の立場から人民戦線政府軍への協力を惜しみませんでした。通信社の特派員として記事を書いたほか、政府軍への資金援助、記録映画『スペインの大地』の制作にも参加しています。人民戦線政府敗北後の1940年10月21日に刊行された長編小説『誰がために鐘は鳴る』は、彼の思いの結晶といえる作品。義勇兵として反ファシスト軍に参加したアメリカ人ロバート・ジョーダンと、ファシストに両親を殺されたマリアの短くも激しい恋を描きました。「キスしてくれ」というロバートに、「あたしたちの鼻、どういうぐあいになるの?」と尋ねるマリア。文学史に残るファースト・キスの名場面です。
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10月22日
キリスト教布教を行っていた角蔵と三吉が逮捕される――菊池寛『島原の乱』
天草諸島の北端・大矢野島に生まれた天草四郎は、幼い頃に島を離れて熊本や長崎で勤めをし、寛永14年、16歳で故郷に戻りました。しかし、そこに待っていたのは、旱魃と重税に苦しむ大勢の人々。四郎は幕府に禁じられていたキリストの教えを説き、彼のもとには多くの信者が集まるようになります。10月22日、島原で布教活動を行っていた角蔵と三吉が逮捕され、翌日には有江村で郷士の家に集まっていた信徒が急襲を受けて反撃、代官を殺してしまったことから、一気に信徒による挙兵へとなだれ込んでいきます。大混乱のなかで、若く美しいカリスマ指導者として総大将に祭り上げられていく四郎を、菊池寛は短編『島原の乱』に淡々と描いています。
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10月23日
中原中也『亡弟』において、主人公の弟が亡くなる
詩人・中原中也は8歳で弟・亜郎を亡くし、悲哀の思いを込めて歌ったのが最初の詩作といわれます。昭和6年9月、中也が24歳のときにもうひとりの弟・恰三が亡くなりました。このときの思いを、中也は追悼の詩とともに小説『亡弟』に書いています。作中の〈弟〉は苦しい受験生活を乗り越えようやく入学できた、その秋から病床に就いてしまうのです。はじめは東京で入院生活を送りますが、翌年3月に帰郷、10月23日に不帰の客となります。最期をみとることができなかった私は、「どうせ死ぬのなら、僕は戦争に行つて死ぬのならよかつた」という弟の言葉を母から聞き、「ああ、もう、死んでしまはうか」と悲しみを募らせるのでした。中也の慟哭が聞こえるかのような作品です。
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10月24日
テロリスト集団によるお台場崩壊テロが発生――福井晴敏『Op. ローズダスト』
防衛庁情報局(DAIS)局員の活躍を描き、スケールの大きいスペクタクル作品として人気の高い、福井晴敏の「DAISシリーズ」。第4作『Op.ローズダスト』は、インターネット関連分野への投資で知られるアクトグループの役員を狙う連続爆弾テロ事件を描きます。最初の事件は2006年10月6日、グループ傘下のアクト・ファイナンシャルの常務取締役・水月総一郎が出勤直後に乗用車ごと爆殺されました。その後も次々に爆弾テロで殺害されていく役員たち。警視庁公安部・並河次郎とDAIS局員・丹原朋希が捜査にあたるなか、10月24日、ついにお台場を崩壊させる重大テロ事件が発生します。アクトグループを狙うテロリスト集団の真の目的とは?
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10月25日
『ル・タン』紙が令嬢襲撃事件を報じる――ガストン・ルルー『黄色い部屋の秘密』
1907年の発表から100年以上を経た今もなお「密室ミステリーの最高傑作」の名を欲しいままにする、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』。1892年10月25日、高名な科学者スタンガーソン博士の令嬢マチルドが、住まいのグランディエ城の離れで就寝中に襲撃されたことを、『ル・タン』紙が報じました。マチルドは実験室の隣にある「黄色い部屋」で、内側から鍵とかんぬきをかけ、窓にも鎧戸が下ろして休んでいたにも関わらず、何者かが侵入したのです。救出されたマチルドは全身血だらけ、首には絞められた跡が残り、壁や扉には男のものと思われる血染めの手形が残っていましたが、侵入者の姿はどこにもなく……。犯人はどこから、どうやって侵入し、そして逃げたのでしょうか!?
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初出:P+D MAGAZINE(2020/10/19)