◎編集者コラム◎ 『吉祥寺デイズ うまうま食べもの・うしうしゴシップ』山田詠美

◎編集者コラム◎

『吉祥寺デイズ うまうま食べもの・うしうしゴシップ』山田詠美


吉祥寺デイズの色校写真

《イメージはクッキングメモです。ちょっとの時間で読めて、ぱぱっと簡単に自分の中に取り込める感じ。それこそシチューの鍋をかき混ぜながら読めるようなものというか。そういう、女性週刊誌が担っている役割を意識しながら書いていました》

 これは、2018年3月に単行本『吉祥寺デイズ うまうま食べもの・うしうしゴシップ』を発売した際に行った、山田詠美さんのロングインタビューの中にある言葉です(取材・構成は倉本さおりさん)。

 本書は、詠美さんが「女性セブン」に綴った連載エッセイ「日々甘露苦露」をまとめたもの。1編は原稿用紙3枚半ほどで、まさに「ちょっとの時間」で読めるエッセイが100編収録されています(単行本では95編を収録。文庫化にあたり5編追加しています)。

 さらに今回「まだまだ続く吉祥寺デイズ」と題して、冒頭のロングインタビューのほか、村田沙耶香さん、武田砂鉄さんとの対談も新たに収録。たっぷり60ページ超を加えた増補版です。

 エッセイの内容は、美味なる食べものや大好きなお酒の話から、折々に世の中を騒がせていた政治や事件、芸能ゴシップなどまで多岐にわたりますが、詠美さんの視点は一貫しています。世間が拳を振り上げる「正しさ」、「常識」とはまったく違う、詠美さんならではの人間観や人生観、文学観が散りばめられています。ロングインタビューからさらに引用します。
 

――不倫ゴシップと文学について
《そもそも人間って、そんなに高尚なものじゃないでしょう。むしろ身近にある、喜怒哀楽から始まっているのが小説であり、文学だと思う》

――スキャンダルを指弾する人たちについて
《週刊誌やワイドショーに関しても同じです。それを眺めて楽しんでいる時点で、自分もそんな〝しょうもない世界〟を担っている人間の一人であることを自覚しておかないと》

――日常を楽しく豊かに過ごすために
《自分たちにしかわからない、〝楽しい無駄〟の要素って、後々すごく心を豊かにしてくれると思うんです》

 
 奇しくも去年から今年にかけて世の中では「不要不急」なる言葉が闊歩しましたが、詠美さんが折々に綴ってきたのは「不要不急こそが人生を豊かにする」ということ。忙しない毎日を送る皆さんにこそ、ちょっとの時間で読めるけれど、あえてゆっくり何度も味わってほしい傑作エッセイ集です。

 最後にお知らせ(お願い?)をふたつ。

◎詠美さんが謹製原稿用紙に手書きで綴るスタイルであることはつとに知られていますが、「あとがき」はその直筆原稿用紙をそのまま掲載しています。私自身、ファンの一人として、毎週、詠美さんから頂く直筆原稿の文字を、私一人だけが味わうことにずっと申し訳なさを感じていました。どうにか読者の皆さんにもご覧頂けないかと思い、直筆でのあとがき執筆をお願いした次第です。詠美さんはいつも(この『吉祥寺デイズ』に収録された100編のエッセイも!)、こうして一文字一文字大切に思いを込めて書いていらっしゃるのか、と想像しながら読んでいただけたらと思っています。

◎12月22日に『吉祥寺デイズ』の続編となるエッセイ集を発売します。タイトルは『吉祥寺ドリーミン てくてく散歩・おずおずコロナ』。「言葉の小姑」を自認する詠美さんが、コロナ禍において跋扈した言葉に「その言い回し、許さん!」と筆を揮った最新エッセイを100編収録しています。こちらもぜひご期待ください。

──『吉祥寺デイズ うまうま食べもの・うしうしゴシップ』担当者より

吉祥寺デイズ

『吉祥寺デイズ うまうま食べもの・うしうしゴシップ』
山田詠美

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