【出生地を舞台とした作品で芥川賞を受賞】中上健次のオススメ作品を紹介

中上健次は和歌山県出身で、純文学を中心にエッセイなども多数発表した作家です。彼自身、被差別部落の出身者であると公言しており、実体験を作品に投影させたものが多数あります。1976年には『岬』で第76回芥川賞を受賞し、1992年に46歳という若さで死去しました。

岬_書影
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舞台は作者である中上健次の出生地でもある和歌山県新宮市。この地域は都心から離れた”僻地”であり、かつてこの中に存在した被差別部落のことを彼は「路地」と表現しています。このような閉鎖空間では、外部との交わりがほとんどなく、世界はその部落の中で完結しているかのような状態です。そんな中で、男女の関係を中心とした人間関係を、ありのままの人間の姿として描いています。人間臭さを良い意味で感じることのできる作品です。
中上健次、芥川賞受賞作『岬』誕生秘話では『岬』を担当した編集者・髙橋一清氏にお聞きした秘話も公開していますので、是非チェックしてみてください。

この作家自身の郷里・紀州の小都市を舞台に、のがれがたい血のしがらみに閉じ込められた青年の、癒せぬ渇望、愛と憎しみ、生命の模索を鮮烈な文体でえがいて圧倒的な評価を得た芥川賞受賞作。

枯木灘

枯木灘_書影
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芥川賞受賞作である『岬』の続編にあたる長編小説。中上健次の代表作ともいえる作品です。全体を通して濃い血縁関係をベースにした家族の物語が描かれています。今は失われつつある日本に昔あった血縁関係の実体験をもとにして書いていることから、とてもリアリティのある作品に仕上がっています。彼の出生地を舞台とした「紀州熊野サーガ」作品群の根幹をなす作品として独特な雰囲気が感じられます。

自然に生きる人間の原型と向き合い、現実と物語のダイナミズムを現代に甦えらせた著者初の長篇小説。毎日出版文化賞と芸術選奨文部大臣新人賞に輝いた新文学世代の記念碑的な大作!

地の果て至上の時

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『岬』、『枯木灘』のさらに続編として書かれた作品。2作目の『枯木灘』で弟を殺害した罪で服役していた主人公が服役を終えて出所してくると、そこにはかつて自分が育った路地と呼ばれる集落はなくなっていました。父、龍造との対立から協調へと物語の構造は変化し、過去2作品とは違った異質な雰囲気を感じさせます。明るく、楽しい作品ではないですが、その中にも中上ならではの深く重い「美」を感じられる作品です。

弟殺しで服役していた竹原秋幸が、故郷熊野へ帰ってきた。だが秋幸不在の三年間に、土地も人も変化していた。父子の確執、「路地」の消滅、容赦ない資本の流入…。重層的に並置された秋幸と紀州をめぐる物語は、壮大にして無比な、現代の“古典”へと昇華する。

千年の愉楽

千年の愉楽_書影
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紀州の路地で産婆をしてきたオリュウのオバと呼ばれる主人公は死を前にして、自分が今までの人生でかかわってきた男性たちの姿が脳裏によみがえるところから物語は始まります。閉鎖された空間である路地を舞台に、濃い人間関係が描かれているのは中上文学の真骨頂ですが、『千年の愉楽』ではその中に「死生観」を感じることができる作品です。

熊野の山々の迫る紀州南端の地を舞台に、高貴で不吉な血の宿命を分つ若者たち―色事師、荒くれ、夜盗、ヤクザら―の生と死を、神話的世界を通して過去・現在・未来に自在にうつし出し、新しい物語文学の誕生と謳われる名作。

大洪水・熱風・鳳仙花

若くして亡くなった中上の遺作である『大洪水』と『熱風』も必見の作品です。『大洪水』は彼の作品の中でもっともエンターテインメント性の高い作品として知られています。『熱風』は中上の未完の遺作のひとつで、『千年の愉楽』の続編と捉えられています。物語がストレートに進んでいくことから、分かりやすいながらも心理描写は圧巻のひとこと。どちらの作品も週刊誌での連載中に絶筆した長編小説です。また、『岬』から始まる「秋幸三部作」以前の物語である『鳳仙花』は中上の実母をモデルにして描いた昭和の女性の一代記ともいえます。

最後に

中上健次のオススメ作品の紹介、如何でしたか?
第156回芥川賞を受賞した村田沙耶香も、村田沙耶香が語る、中上健次作品の“不思議な感覚”で、中上作品との出会い、作品から受けた”不思議な感覚”について語っています。
是非皆さんも中上健次の作品を手に取って見てください。

今回ご紹介した『大洪水』『熱風』『鳳仙花』はP+D BOOKSで紙と電子の書籍で発売中です。ためし読みも公開していますので是非チェックしてみてください。

『大洪水』(上)_書影
『大洪水』(上)のためし読みはこちら

熱風_書影
『熱風』のためし読みはこちら

鳳仙花_書影
『鳳仙花』のためし読みはこちら

初出:P+D MAGAZINE(2016/10/10)

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