【吉本ばななも大ファン】立原正秋のオススメ作品を紹介

能や古典に傾倒し、美しく叙情的な恋愛小説を数多く生み出した立原正秋。純文学と大衆文学のエッセンスを巧みに使い分けた数々の作品は、大人の男女から根強い支持を受けています。

冬の旅

冬の旅_書影
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101095027

主人公は高校生の少年。義兄が母親を襲う場面に出くわした彼は、義兄の足を刺してしまい、少年院に送られます。母への愛や義兄への憎しみを抱きながら少年院で過ごすうち、周囲の仲間と親密になっていった彼は、暖かい友情と自分との孤独な闘いという2つの感情の中で生きていくようになります。立原正秋には珍しく、大人の恋愛関係が登場しない作品ですが、少年特有の真っ直ぐさと危うさが鮮烈に描かれた長編小説です。

美しく優しい母を、義兄修一郎が凌辱しようとした現場を目撃した行助は、誤って修一郎の腿を刺して少年院に送られる……。母への愛惜の念と義兄への復讐を胸に、孤独に満ちた少年院での生活を送る行助を中心に、社会復帰を希う非行少年たちの暖かい友情と苛烈な自己格闘を描き、強い意志と真率な感情、青春の夢と激情を抱いた若い魂にとって非行とは何かを問う力作長編。

残りの雪

残りの雪_書影

激しい愛、空虚になってゆく愛という2つの愛情を対照的に描いた作品です。夫に失踪された主人公は、鎌倉で会社社長の男性と出会い、互いに恋愛感情を燃え上がらせていきます。その一方で、失踪した夫の不倫関係はどんどん俗っぽく、虚ろなものに。主人公たちが過ごす鎌倉の四季、風景、食なども鮮やかに表現され、日本の美をじっくりかみしめる作品としても高い評価を得ており、立原正秋の代表作のひとつに数えられる作品といえます。

夫は、なぜ失踪したのか? 理由なき別れに苦しみ、無為不安の日をおくる里子は、40代の会社社長で、骨董の目利きでもある男、坂西と出会う。妻子を捨てた夫と、年上の女との情事が日々うつろなものに変っていくのとは対照的に、二人の愛は古都鎌倉の四季の移ろいの中で、激しく美しく燃え上がった……。

春の鐘

春の鐘_書影
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101095159

実写映画化もされた長編小説です。妻に不倫をされた美術史家が、自らも陶工の娘と恋愛関係になり、古都奈良を舞台に愛情を深めていきます。夫にかえりみられない不満から浮気に走った妻、そんな妻を許せないながら自らも新たな恋に溺れる主人公、彼の愛を受け入れながらも前夫とのしがらみがつきまとう陶工の娘。相手をつなぎとめたくてもできない、そんな人間関係のもつれが、奈良の美しい情景のもとに表現される傑作です。

古陶磁器の美を探求する美術館長を巡って彼の妻、そして陶工の娘と三人それぞれの愛を描く。

剣ケ崎・白い罌粟(けし)

剣ケ崎・白い罌粟_書影

表題作の「剣ケ崎」は、日本と朝鮮の血を引く兄弟が、戦争によって人生を翻弄される中で自身の存在を確認しようとする葛藤を描いた作品です。立原正秋自身も朝鮮半島出身であり、自らの生い立ちと重ねられたリアルな表現が胸を打ち、芥川賞候補作にもなりました。「白い罌粟」では金貸し屋を踏み倒すという妙な職業の男に惹かれてしまったがゆえに破滅していく男性教師が主人公であり、緊張感に満ちた展開と、作品全体に漂うニヒリズムが評価され、、第55回直木賞を受賞しました。

昭和文芸を代表する流行作家『立原正秋』-直木賞受賞までの軌跡-」では立原正秋が直木賞を受賞するまでの軌跡をまとめています。こちらも併せてチェックしてみてください。

日本と朝鮮の血を引く家系に生まれた兄弟が、戦争という得体の知れないものに翻弄されながらも、自分たちの存在を確かめようと、”血”とは何かを追求した「剣ケ崎」。

金貸業者を踏み倒す事を仕事にしている奇妙な男にひかれて、その不可解な魅力と付き合っているうちに、自らも破滅してゆく中年の教師を描いた「白い罌粟」。

恋人たち

電子全集書影

1980年にテレビドラマ化もされた、代表作のひとつです。一卵性の三つ子である兄弟それぞれが歩む数奇な人生と、彼らがとらわれる恋愛関係とを描いた群像劇であり、鎌倉を舞台に繰り広げられる乾いた日常生活と恋愛とが読む者の心を離しません。生い立ちや社会環境ゆえの、先の見えない閉塞感や倦怠感がありありと表現されており、当時の若者を中心に幅広く支持を得た作品です。
恋人たちは小学館から発売されている立原正秋全集で読むことが出来ますので、是非チェックしてみてください。
立原正秋全集の特設サイトはこちら

最後に

P+D MAGAZINEでも多々登場する立原正秋のオススメ作品は如何でしたか?
人気連載「文芸女子」でも立原の『残りの雪』をご紹介しています。是非こちらの記事も併せてチェックしてみてください。
【複雑に絡み合う、愛についての物語】本好き美女が、立原正秋『残りの雪』を読む。
今回ご紹介した『残りの雪』『剣ケ崎・白い罌粟』はP+D BOOKSにて紙、電子の書籍で発売中です。ためし読みも公開していますので、この機会に立原正秋の作品を手にとってみてください。

『残りの雪』のためし読みはこちら
『剣ケ崎・白い罌粟』のためし読みはこちらから

初出:P+D MAGAZINE(2016/10/09)

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