椹野道流の英国つれづれ 第39回

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アレックスは、他にも規模の小さな銀行がいくつかあると教えてくれましたが、やはり大きな銀行のほうが、気分的に安心です。

何とか……何とか、口座を開かせてほしい。

あるいは、現時点では無理でも、どうにかこうにか努力と工夫で打開できる条件を出してほしい。

祈るような気持ちで待つ時間は、15分……いえ、20分はあったかもしれません。

やがて戻ってきた銀行員は、愛想のいい笑顔で「お待たせしました」と言ったあと、こう続けました。

「何も問題ありません。あなたは当行で口座を開くことができますよ」

えっ。

何だか呆気なさ過ぎて、私はむしろポカンとしてしまいました。

「あなたは、銀行口座を、開けます」

私のリアクションを、自分の英語が理解できないからだと考えたらしく、銀行員はもう一度、ゆっくり、そう言ってくれました。

「……本当ですか?」

「ええ、勿論。こちらへどうぞ。必要な書類に記入をお願いします」

まだ半ばぼんやり状態のまま、私は彼に導かれるまま、椅子に掛け、丸テーブルの上に、彼が次から次へと広げる書類に、ガリガリと住所と氏名を書き込みました。

「その住所は……なるほど、賃貸ですね。電話は? ああ、なければ結構です。パスポートはお持ちですね? では、番号をそこに記入してください。パスポートは、コピーも取らせていただきます」

促されてペンを走らせながらも、私はまだ信じられない気持ちでいました。

こんなにスムーズに事が運ぶなんて、あり得るかしら?

むしろ、ちょっと怖いような気すらします。


「椹野道流の英国つれづれ」アーカイヴ

椹野道流(ふしの・みちる)

兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。

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