採れたて本!特別企画◇レビュー担当7人が自信をもって推す!2021年ベスト本

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    国内ミステリ    

月村了衛
『機龍警察  白骨街道』
  

機龍警察  白骨街道

早川書房

評者︱千街晶之 

 二〇二一年は、ちょっと稀に見るくらい国産ミステリ小説の傑作が多い年だった。しかし、そんな中でも、何か特別な力を味方につけているのではないかと感じさせる一冊があった。それが、月村了衛の「機龍警察」シリーズの第七作、『機龍警察 白骨街道』である。

 日本の中枢部に巣喰う〈敵〉と対決してきた警視庁特捜部。前作『機龍警察 狼眼殺手』で特捜部部長・沖津の暗殺を企てた〈敵〉は、手を休めることなく新たな特捜部解体に向けた手を打ってきた。首相官邸に呼び出された沖津は、ミャンマーの奥地で逮捕された国際指名手配犯の身柄引き取りのため、特捜部突入班の姿俊之、ライザ・ラードナー、ユーリ・オズノフを現地に送るよう命じられた。それは、政情不安な現地で三人を抹殺し、機甲兵装「龍機兵」を動かすため彼らに挿入された「龍髭」を奪取しようという〈敵〉の企みだった。

 やむなく沖津によって現地に送られた三人の前に、少数民族への迫害や軍部の専横といったミャンマーの暗部が繰り広げられ、絶体絶命の危機が立て続けに襲ってくる。一方、国内では、国産機甲兵装開発計画に絡む経済犯罪を沖津たち特捜部と捜査二課が追うことになる。

 このシリーズの時代背景について、著者は当初「至近未来」と表現していたけれども、近年は「現在」だと言明している。そのことが誰の目にも明瞭になったのが、この『機龍警察 白骨街道』だった。連載が始まった時点では、東京五輪に絡めて「インパール作戦」という言葉がこれほど世間で語られるとは著者も思っていなかった筈だし、ましてや、連載の途中でミャンマーの情勢自体が激変するとは誰が予想していただろう。しかし、著者はその出来事を作中に取り入れ、これが「現在」の物語であることを強調するのに見事に成功したのだ。

 著者のオンライントークショー(《ミステリマガジン》二〇二二年一月号掲載)によると、海外出張篇の舞台の候補として当初は南米かミャンマーを考えていたというが、もし前者にした場合、今年を代表するもうひとつの話題作、佐藤究の『テスカトリポカ』(中南米のメキシコに端を発する物語である)と被ってしまったわけで、その意味でもミャンマーを選んだのは正解だった。冒頭で「何か特別な力を味方につけているのではないか」と評したのはその強運ぶりについてだが、もちろん、著者の時代を見据える鋭い眼差しと強運を自ら掴みに行く俊敏さがなければ、このような小説は書けないのである。
 

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