モーリー・ロバートソンが語る、「ぼくたちは何を読んできたか」②その青春の軌跡 モーリーのBOOK JOCKEY【第3回】
1ヶ月後、マサチューセッツ州セイラムに向かった。そこでは清教徒たちが入植したばかりの1692年3月、200名近い村人が魔女として告発され、19名が処刑され、1名が拷問中に圧死、5名が獄死した。少女たちの多くは拷問で自白し、そのまま処刑され、清教徒たちのコロニーは異常な群集心理に包まれた。ここを巡礼するしかない。夏の間にタクシーの運転手からもらった紙片を段ボール箱の隅から見つけ出し、電話して、
「魔女を知りませんか」
と問い合わせた。知っていた。その魔女を訪ねた。
マサチューセッツ州の片田舎で魔女は宝石と占いのショップを営んでいた。魔女本人もアシスタントの若い女性たちも想像した通りの黒い衣装をまとい、カウンターに立っていた。思った通りのセクシーな魔女たちに会えてぼくは興奮した。電子音楽やバンド「サイキックTV」についてまくし立てるように喋った。若いアシスタントたちはぼくの剣幕に露骨な嫌悪感を示した。だが構わず早口の英語でしゃべり続けた。ここに何かがある。真実に突き当たるまで押して押して、押しまくるしかない。一通り話を聞いてくれた魔女の店長は手相を見てくれた。次いで、
「そうだ! タクシーの運転手さんに直接会いに行って話を聞くといいんじゃない?」
と提案。ぼくは、
「そうですね。そのとおりですね!」
と興奮気味に、アドバイスされるがまま、ボストンにとんぼ返りした。魔女との出会いを報告するためにその夜遅く、タクシーの運転手の家を訪ねた。
タクシーの運転手はつましい木造アパートに内縁の妻と2人で暮らしていた。提供されたドーナツを次々と食べ、ミルクがたっぷり入ったコーヒーを何杯も飲みながら、神秘主義や西洋文明の歴史、科学が解明できることの限界、前世と輪廻転生、共和党の陰謀、ナチスドイツを影で支えた秘密結社、超常現象、麻薬の幻覚作用と神秘体験の違い、ポルター・ガイスト、ESPなどについて何時間もノンストップで話し込んだ。時計の針が早く動いているのか、いつもよりゆっくり動いているのかわからなくなるほど、純粋な思考を直感しながら、脳の中にある論理的な経路がすべて「オン」の状態になっていった。もっとドーナツを食べた。もっとミルクコーヒーを飲んだ。と、その時。
ぼくの視界に何かが見えた。それは光の粒が少しずつ、数珠つなぎになって右から左へと流れるさまだった。これが日常の世界と非日常の世界の間のヴェールが持ち上げられた瞬間だということは、直感的にわかった。まちがいない。この時、ニューヨークで1ヶ月前に「サイキックTV」の残酷なペニス手術の映像と爆音に打ちのめされたのよりもっと深く、衝撃を受けた。それは無音にして轟音だった。ないものが、あった。見えないはずのものが、見えた。いや、本当は見えているものが見えなくなっている。覚醒すれば本当の世界のありさまが見える。その片鱗があちら側からこちら側へと示された瞬間だった。ぼくは全身全霊が脳になっていた。一つの浮かぶ、大きな脳。いや大宇宙の中の小さな脳ではあるが、同時に時空を折りたたんで全宇宙と一体化し、宇宙を包み込む泉、つまりすべてがすべてに湧き出でる「泉」になったのだった。同じ題名の作品をダダイストのマルセル・デュシャンがかつて画廊に展示したことがあった。それは、ただの小便器に署名を入れたものだった。しかし今ぼくが目覚めた「泉」とは、すべてがすべてに対流し、テレビ番組「ウルトラQ」のオープニングで絵の具がぐるぐると回っているように宇宙が自分で自分を生成するその瞬間だった。それが脳になったぼくだった。一瞬固まったが、またすぐにドーナツを食べ続けた。すごい量の脳内処理をしていたため、またすぐにお腹が空いた。最後には疲れ果てて、そのアパートで午後まで寝てしまった。