池上彰・総理の秘密<12>

急な方針転換や、側近の辞職など、日々目まぐるしく変化しているトランプ政権の情勢。先日の安倍総理との日米首脳会談では親密なやりとりが行われた模様ですが、今後はどのように展開していくのでしょうか? さて、大好評の連載第12回目は、総理が自由に使えるお金、「官房機密費」に着目。その金額、想像ができますか? 池上彰氏がわかりやすく解説します。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラム。

「官房機密費」とは?

前回は総理の年収を取り上げました。しかし、総理には、自分の給与とは別に、自由に使えるお金があります。それが内閣官房報償費です。

その額は毎年14億6165万円。このうち内閣情報調査室の費用を除いた12億3021万円が、内閣が自由に使えるお金です。内閣官房長官の判断で支出することができる経費ですから、総理が自由に使えるお金と表現してもいいでしょう。俗に「官房機密費」とも呼ばれます。

政府の支出には必ず領収書が必要で、支出が適正であったかどうか会計検査院が検査しますが、この内閣官房報償費は、それをまぬがれています。つまり、どう使おうと自由なのです。

秘密の外交情報を取得する費用や外交交渉の秘密の支出などに使うことができる仕組みになっているのですが、これを悪用し、総理や官房長官の私的流用があるのではないか、野党対策で野党幹部に渡っているのではないか、世論対策のために評論家やジャーナリストに渡されているのではないかとの疑惑が取り沙汰ざたされてきました。

2009年(平成21)8月の衆議院選挙で自民党が敗北し、政権交代が確実になった直後、麻生あそう内閣の河村建夫かわむらたけお官房長官が、2億5000万円を引き出していたことがわかり、問題になりました。政権を下りる直前に何に使う必要があったのか、「持ち逃げ」ではないか、というわけです。

2010年(平成22)5月には、小渕おぶち内閣で官房長官を務めた野中広務のなかひろむ氏が、「毎月総理に1000万円、総理経験者に盆暮れに100万円ずつ渡していた。世論対策のために政治評論家にも金を渡していた」と暴露ばくろしました。

民主党は、野党時代、機密費の公開を政府に求めていましたが、政権を取った後は、公開しませんでした。
#12_DMA-P34野中官房長官
小渕恵三元総理に耳打ちする野中広務元官房長官(右)
総理を補佐する官房長官は「総理の懐刀(ふところがたな)」とも呼ばれ、一般には総理に近い政治家が就任する。小渕総理は土下座をしてまで官房長官就任を野中氏に懇請したという。写真は、1999年(平成11)1月29日の衆議院予算委員会での小渕総理と野中官房長官。写真/共同通信社

池上彰 プロフイール

いけがみ・あきら
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。

(『池上彰と学ぶ日本の総理12』小学館より)

初出:P+D MAGAZINE(2017/02/17)

「文豪とアルケミスト」が描く、キャラクター同士の絆。
ドナルド・トランプの物語論【教えて!モリソン先生 第5回】