文学的「今日は何の日?」【4/13~4/19】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
4月13日から始まる1週間を見てみましょう。

4月13日

フランスで売春宿が禁止され、資金を流用していた東側スパイが苦境に

世界でもっとも有名なスパイ、007ことジェームズ・ボンドのデビュー作である『カジノ・ロワイヤル』(イアン・フレミング著)。1946年4月13日、フランスで売春宿を禁止する法律が成立します。ソ連諜報機関の工作資金を私的に流用して売春宿組織を買収していたフランス人スパイのル・シッフルはこれにより大損害を被り、身の破滅に瀕していました。高額な掛け金で知られるバカラ賭博に勝って資金の穴埋めをしようとカジノ・ロワイヤルに乗り込みますが、それを阻止すべくジェームズ・ボンドが送り込まれます。イカサマなしの息詰まる心理戦――バカラの真剣勝負を制するのは誰なのでしょうか!?


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4月14日

トーマス・マンの『ブッデンブローク家の人びと』に次女クララが誕生する

著者の生地でもあるドイツ北部の都市リューベックを舞台に、商家ブッデンブローク家4代の盛衰を描いた、トーマス・マンの傑作『ブッデンブローク家の人びと』。作中において1838年の4月14日、2代目ヨハンの妻エリザベートが、次女クララを産みました。病弱で信仰に生きるようになるクララは、明るくお姫様気質の姉アントーニアと対照的に描かれますが、精神的・芸術的なものに支配され、次第に生活力を失なってゆくこの家を象徴するかのような存在となります。そして、家同様にクララ自身もやがて……。本作によりトーマス・マンは1929年にノーベル文学賞を受賞しています。


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4月15日

流行性肝臓炎の治療に奔走する『肝臓先生』に、県の保険課からの公文書が届く

新戯作派を自称した昭和の文豪・坂口安吾の短編『肝臓先生』。今村昌平による映画化作品『カンゾー先生』でご存じの方も多いでしょう。静岡・伊東の町医者・赤城風雨は、自分のもとを訪れる患者たちがことごとく肝臓炎を患っていることにいち早く気づき、ブドウ糖注射による治療を行うようになりました。昭和17年の4月15日、赤城のもとに県の保健課から、ブドウ糖注射による治療の多すぎを疑問視する公文書が届きます。肝臓先生と揶揄されながらも、庶民のために立ち上がった町医者の、心を揺さぶる物語です。


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4月16日

カミュの『ペスト』で、大いなる不条理とオラン市民の戦いが始まった

不条理文学を代表するフランスの作家アルベール・カミュが、アルジェリアの港湾都市オランを舞台に書いた小説『ペスト』において、194*年4月16日の朝、医師ベルナール・リウーが、死んだ鼠につまづきます。まもなく鼠の死骸は町中で見られるようになり、そして市民の間に腋や鼠径部を腫らし、高熱に苦しむ患者が出始めました。ペスト蔓延の始まりです。外部から遮断されたオランで治療に奔走する医師、保健隊に志願する市民、オランを棄てて脱出をもくろむ者、ペストを神の懲罰とみなし悔い改めよと説く聖職者……。ペストという「不条理」と直面した人々が見せる諸相を描く名作です。


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4月17日

クトゥルフ神話、主人公A・タイパーがこの日を境に消息を絶つ!

クトゥルフ神話には、H・P・ラヴクラフト自身の作品のほか、クラーク・アシュトン・スミス、オーガスト・ダーレスら別の作家が書いたものが数多くあります。ウィリアム・ラムレイ『アロンゾ・タイパーの日記』は、ラムレイの原稿にラヴクラフトが手を加えた作品で、謎の書物『エルトダウン・シャーズ』が出てくることで知られています。吸血鬼信仰やポルターガイスト現象を研究していた本作の主人公アロンゾ・タイパーは、1908年4月17日、ニューヨーク州バタヴィアのホテルで目撃されたのを最後に姿を消しました。1935年になって倒壊した屋敷から発見されたタイパーの日記には、不可解な内容が記されていたのです……。


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4月18日

横溝正史「いろ八卦はっけ」で、湯島の富突きの日、一番違いのはずれ札が思わぬ事件を引き起こす

水もしたたる美男ぶりから「人形佐七」と呼ばれる岡っ引きの活躍を描いた、横溝正史『人形佐七捕物帳』シリーズ。今も昔も、庶民にとって一獲千金の夢といえば富くじ(宝くじ)ですが、いろ八卦はっけではこの富くじが連続殺人事件を引き起こします。湯島の富突きが開かれた4月18日、佐七の妻・お粂がはずれた富札を手に帰ってきました。そして一番違いで千両を当てそこねた茶くみ女・お富がたいそう悔しがっていたことを話します。千両を突き当てたのは木戸番・弥平でしたが、富札がお富のはずれ札とすり替えられ、すり替えた女易者は絞殺されていました……。佐七の推理が謎を解き明かします。


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4月19日

角田光代が西原理恵子から子猫を譲り受ける

2010年1月6日、漫画家でエッセイストの西原理恵子の愛猫が出産しました。角田光代は「六人子猫を待っている人がいるから、七番目ね」と子猫を譲り受ける約束をしていたところ、生まれたのは3匹。その前のお産で産んだ4匹と合わせて、ちょうど7匹となったのです。角田の出張などのために少し遅れて4月19日に西原宅を訪れ、子猫を引き取りました。名前は「トト」に決定。角田のエッセイやツイッターにも頻繁に登場する、淡い灰色の縞模様がきれいなトトとの出会いは、『今日も一日きみを見てた』に詳しく書かれています。


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初出:P+D MAGAZINE(2020/04/13)

ピョン・ヘヨン 著、姜 信子 訳『モンスーン』/実は誰もが知っている「恐怖」の地獄を描く
◎編集者コラム◎ 『ガラスの虎たち』著/トニ・ヒル 訳/村岡直子