【先取りベストセラーランキング】キャッシュレス銀行に強盗に入った間抜けな泥棒の、人質事件の顛末は…… ブックレビューfromNY<第61回>
NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの61回目。どこか間の抜けた登場人物たちの、問題・悩み・屈折を超えた善良さや愛情を描いた、心温まる癒やしの一冊を紹介します。
<第61回>銀行強盗に失敗した間抜けな泥棒による、人質事件の顛末
Anxious People/ by Fredrik Backman
Atria, 2020.352ページ. US$28.00.
今月のベストセラー事情
今月の「ニューヨーク・タイムズ ベストセラー事情」は、ハードカバー・フィクション部門のトップ10 (2020 年12月6日の週)[1]を紹介する。
1.Rhythm of War
By Brandon Sanderson
Tor
新しい技術的発見は戦争のやり方を変え、さらなる軍備拡大競争が始まった。「嵐光録(The Stormlight Archive)」シリーズ4作目。
(ベストセラー初登場)
2.Daylight
By David Baldacci
Grand Central
FBI捜査官のアトリー・パインは、6歳の時に誘拐され消息不明の双子の姉妹メアリーを捜し続けていたが、彼女の捜索は、軍隊の捜査官ジョン・プラーの捜査活動とオーバーラップし、2人は世界規模の陰謀に巻き込まれていった。「アトリー・パイン」シリーズ3作目。
(ベストセラー初登場)
3.A Time for Mercy
By John Grisham
Doubleday
ジェイク・ブリガンスは、国選弁護人として殺人の容疑をかけられた若い男の弁護をすることになった。「ジェイク・ブリガンス」シリーズ3作目。
(ベストセラー6週目)
4.The Law of Innocence
By Michael Connelly
Little, Brown
愛車リンカーンのトランクから死体が発見され、殺人容疑で逮捕された弁護士ミッキー・ハラ―は自分で自分を弁護することにした。「ミッキー・ハラ―」シリーズ4作目。
(ベストセラー2週目)
5.The Return
By Nicholas Sparks
Grand Central
海軍の軍医だったトレヴァー・ベンソンはアフガニスタンで重傷を負ったため本国に戻り、祖父から相続したノースカロライナ州の家で静養していた。そして、その地で知り合った2人の女性によって、彼の人生は大きく変わることになった。
(ベストセラー8週目)
6.All that Glitters
By Danielle Steel
Delacorte
成功者の両親を持ち、美しく才能豊かなココはすべてを手にしていた。しかし、コロンビア大学卒業間近なある日、フランスで休暇を過ごしていた両親はテロ事件に巻き込まれ、殺害されてしまった。一人ぼっちになったココの自分探しが始まった。
(ベストセラー初登場)
7.The Sentinel
By Lee Child and Andrew Child
Delacorte
さすらいの男ジャック・リーチャーは、ある朝テネシー州のプレザントビルという町に着いた。そこで1人の男が4人組に待ち伏せされ攻撃されているのを見かけ、この男を助けた。そしてリーチャーは、ラスティ・ラザフォードと名乗るこのさえない男が思いもかけずに関わってしまった陰謀と殺人に巻き込まれる羽目に陥った。「ジャック・リーチャー」シリーズ25作目。
(ベストセラー4週目)
8.Fortune and Glory
By Janet Evanovich
Atria
ステファニーの最愛の祖母メイザーの新しい夫は結婚式の夜に死んでしまい、新婦メイザーにおんぼろの安楽椅子だけを遺した。しかし、この椅子が人生を変えてしまう富への鍵だった。富のありかを探すステファニーとメイザーの前に立ちふさがったのは、リトル・ハバナから来た、デザイナー服に身を包んだ武術や銃の達人ガブリエラ・ローズだった。「ステファニー・プラム」シリーズ27作目。
(ベストセラー3週目)
9.Tom Clancy: Shadow of the Dragon
By Marc Cameron
Putman
中国の科学者の失踪、北極の海底から聞こえる異音、米諜報機関内に二重スパイが潜入している可能性等、大統領ジャック・ライアンにとっては頭の痛いことだらけだった。そこで大統領はジョン・クラークと彼の《キャンパス》チームを中国に送り込んだ。「ジャック・ライアン・ユニバース」シリーズ30作目。トム・クランシーが創作したこのシリーズは、2013年の彼の死後も継続している。
(ベストセラー初登場)
10.Peace of My Heart
By Mary Higgins Clark and Alafair Burke
Simon & Schuster
TVプロデューサーのローリー・モランと婚約者アレックス・バックリィは結婚式を目前にして、幸せの絶頂だった。そんな時、アレックスの甥(7歳)がビーチで行方不明になった……。《サスペンスの女王》メアリー・ヒギンズ・クラークとアラフェア・バークの共著「Under Suspicion」シリーズ7作目。
(ベストセラー初登場)
6週目のA Time for Mercyと8週目のThe Returnが先月のリストから残っているが、それ以外は最近出版された新作ばかりで、そのうち5作品が、今週初登場となる。新作出版は激しい売り上げ競争になっている。
2020年も最後の月となった。このコラムで話題にしたこともある、9000万人の会員を持つGoodreads[2]という 《本を共有するソーシャルネットワーク・サイト(Social cataloguing site)》は、年末にその年出版された本のGoodreads Choice賞を部門ごとに会員の投票によって選ぶ。予選を通過し、部門ごとに最終候補に残った作品10点が11月に発表され、再び投票を経て、12月8日に各賞が発表された。本コラムでレビューした作品も6作品が最終候補作品に選ばれた。フィクション部門ではDear Edward(2月)、Such a Fun Age(3月)、American Dirt(4月)、ミステリー&スリラー部門ではThe Boy from the Woods(5月)、歴史小説部門では、The Vanishing Half(9月)、そしてホラー小説部門ではIf it Bleeds(7月)が最終候補作品になった。この中で、The Vanishing Halfが今年の歴史小説部門のGoodreads Choice賞に選ばれた。ちなみに今年1月にレビューしたThe Silent Patientは2019年のミステリー&スリラー部門のGoodreads Choice賞を受賞している。
ニューヨーク・タイムズは、ベストセラーとして毎週15作品をリストしているが、このコラムでは上位10作品を毎月紹介している。ここ2~3か月は新作小説が10位以内で激しく争っていて、ロングセラー小説は11位から15位に登場している。Where the Crawdads Singはロングセラー116週目になり、13位にリストされている。また26週目のVanishing Halfは12位にランクしている。注目は14位で11週目のAnxious Peopleで、9月27日に初登場1位にランクされて以降、10位から15位の間で毎週登場していた。この小説はGoodreads Choice賞のフィクション部門の最終候補作品の1つに選ばれ、受賞を逃したものの、わずか5票の得票差だった。今月はこの作品を紹介したいと思う。
[1] “A version of this list appears in the December 6, 2020 issue of The New York Times Book Review. Rankings reflect sales for the week ending November 21, 2020.” (このベストセラー・リストは2020年12月6日のニューヨーク・タイムズ紙ブックレビュー欄に掲載。リストは2020年11月21日で終わる週の売り上げをもとに作成されている。)
[2]Goodreadsは2006年にOtis Chandlerと Elizabeth Khuriによって設立され、2013年にAmazon.comによって買収されたSocial cataloguing サイト。2019年には会員数は9000万人に膨れ上がった。
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