【先取りベストセラーランキング】アフリカ系オピニオンリーダーによる、奴隷をめぐる歴史小説 ブックレビューfromNY<第48回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの48回目。今回は、現代の人種問題について論じた記事で数々の賞を獲得してきたアフリカ系アメリカ人のエッセイスト兼ジャーナリスト、タナハシ・コーツの初めての小説を紹介します。

<第48回>アフリカ系アメリカ人オピニオンリーダーの小説デビュー作

The Water Dancer書影
The Water Dancer/ by Ta-Nehisi Coates
One World, 2019.403ページ. US$28.00

今月のベストセラー事情

今月の「ニューヨーク・タイムズ ベストセラー事情」は、ハードカバー・フィクション部門のトップ10 (2019年11月3日の週) [1]を紹介する。

1.The Guardians

By John Grisham
Doubleday

フロリダ北部の小さな町で若い弁護士がオフィスで仕事中に銃で殺された。犯人は何の痕跡も残さず現場を立ち去り、目撃者もいなかった。しばらくして、警察はクィンシー・ミラーという名の若い黒人の男を逮捕した。クィンシーは無実を訴えたにもかかわらず、終身刑の判決を受けた。22年後、彼は獄中から「ガーディアン」という名の小さなグループに無実を訴える手紙を書いた。そしてこのグループの創設者の弁護士であり牧師のカレン・ポストはこの件を調査するために、フロリダに向かった……。
(ベストセラー初登場)


2.Where the Crawdads Sing

By Delia Owens
Putnam

1969年、ノースカロライナ州の静かな町でチェース・アンドリュースの死体が発見された時、地元の人たちは、湿地帯で一人暮らしをし、「湿地帯の娘」と呼ばれていた若い女性を犯人だと思った。
(ベストセラー59週目)


3.The 19th Christmas

By James Patterson and Maxine Paetro
Little, Brown

クリスマス・シーズンが近づき、誰もがお祝い気分になっていた。そんな折、「ロマン」と呼ばれる犯罪者が他の犯罪者たちも巻き込んでクリスマスの朝に恐ろしい事件を目論んでいることを知ったサンフランシスコ市警の警察官リンゼイ・ボクサーと「女性殺人倶楽部」の仲間たちは、これを阻止すべく立ち上がったが……。「女性殺人倶楽部」シリーズ19作目。
(ベストセラー2週目)


4.The Water Dancer

By Ta-Nehisi Coats
One World

バージニア州で奴隷の母親から生まれたハイラムの父親は、プランテーションの所有者だった。ハイラムは見聞きしたことをすべて記憶する能力を持っていたが、幼い時に別れた母親に関する記憶はなかった。そんな彼は次第に、奴隷制度に反対し奴隷を南部から北部の自由州やカナダに逃亡させる活動をしている地下組織に関わるようになっていった……。
(ベストセラー4週目)


5.The Institute

By Stephen King
Scribner

深夜、ミネアポリス郊外の閑静な住宅地で殺人事件が起こった。侵入者は両親を殺し、眠っている息子のルークを誘拐した。窓のない部屋で目覚めたルークは、次第に自分と同じように特殊な才能を持つ子供たちが、同じ施設の別の部屋に閉じ込められていることに気付いた。この施設では子供たちの才能を搾り取るためにあらゆる手段が用いられ、用済みになった子供たちは姿を消した……。
(ベストセラー6週目)


6.Oliver, Again

By Elizabeth Strout
Random House

2008年に出版されてベストセラーとなり、2009年にピューリッツァー賞(フィクション部門)に輝いた“Olive Kitteridge”の続編。メイン州の海辺の小さな町、怒りっぽくて皮肉屋、変化を嫌うが正直で思いやりのあるオリーブが再び登場……。
(ベストセラー初登場)


7.The Dutch House

By Ann Patchett
Harper

第二次大戦後、シリル・コンロイは貧しさの中から巨大な富を築き上げ、フィラデルフィアの郊外にオランダ風の豪華な邸宅を購入した。息子のダニーとその姉のミーヴは成人になった時、生まれ育ったこの家から去った。そして裕福だった姉弟はたちまちにして財産を失った。その後50年間、貧しさの中でお互いを慰めあっていた姉弟はついに試練の時を迎えた……。
(ベストセラー4週目)


8.The Testaments

By Margaret Atwood
Nan A. Talese/Doubleday

1985年に出版された『侍女の物語』(“Handmaid’s Tale”)の時代から約15年後に、3人の女性が証言した「その後」の物語。
(ベストセラー6週目)


9.Ninth House

By Leigh Bardugo
Flatiron

ヒッピーの母を持ち、ロサンゼルスで育ったギャラクシー(アレックス)・スターンは学校を中退し、麻薬取引をする怪しげなボーイフレンドたちの世界にどっぷりと浸かり、ついには最悪ともいえる事件に遭遇した。まだ20歳の彼女は、未解決の大量殺人事件の唯一の生存者となったのだ。そして負傷して送り込まれた病院のベッドに横たわっていた彼女に世界有数のエリート大学であるイェール大学に入学、という話が持ち込まれた。この話にどんな裏があり、なぜ自分にこのようなチャンスが与えられたのかと、アレックスは当惑した。そして答えが出ないまま、彼女はイェール大学の学生になった……。「アレックス・スターン」シリーズ第1作目。
(ベストセラー2週目)


10. The Giver of Stars

By Jojo Moyes
Pamela Dorman/Viking

1930年代の終わり頃、アリス・ライトは衝動的に裕福なアメリカ人のベネット・ヴァンクリーブとの結婚を決意して英国を離れ、ケンタッキー州で結婚生活を始めた。冒険と同時に現実からの逃避のつもりの結婚だったが、夫は妻を顧みず仕事に没頭し、威圧的な父親の言いなりで、全くの期待外れだった。そんなアリスは、町で厄介者扱いをされているマージェリ・オハラと知り合った。マージェリの貧しい人々へ本を届ける活動に賛同したアリスやそのほかの女性たちは、周囲の反対や妨害にもかかわらず活動を続け、女性の自由や友情に目覚めていった。実話に触発されて書かれた小説。
(ベストセラー2週目)


第2位の“Where the Crawdads Sing”はベストセラー59週目と快調にロングセラーを続けている。先月レビューした“The Testaments”や“The Institutes”も先月のリストから残っている。しかし、そのほかはすべて過去4週間以内にベストセラー入りした新作ばかりだ。秋は新作ラッシュで、激しい売り上げ合戦が繰り広げられている。

今月は、第4位の“The Water Dancer” を取り上げたい。エッセイストでありジャーナリストのタナハシ・コーツの初めての小説である。この作品は4週間前に1位で初登場している。

[1] “A version of this list appears in the November 3, 2019 issue of The New York Times Book Review. Rankings reflect sales for the week ending October 19, 2019. Lists are published early online.” (このベストセラー・リストは2019年11月3日のニューヨーク・タイムズ紙ブックレビュー欄に掲載。リストは2019年10月19日で終わる週の売り上げをもとに作成されている。)

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