田口俊樹『エージェントは二度推理する』

ファン待望のシリーズ大復活作
マイロン・ボライター・シリーズの最後の邦訳『ウィニング・ラン』が出たのが2002年。本作はなんと24年ぶりのシリーズ邦訳復活作となる。確かに、マイロンは4年まえの邦訳『ウィン』にも登場するものの、あくまで名ばかりで、『ウィン』をマイロン・シリーズとは言えまい。70年代に起きた学生運動がらみの事件を調べる〝ミステリー史上最強のハイスぺ男〟ウィンの魅力が爆発した傑作だった。ついでながら、コーベンさん、このウィンのほうもシリーズ化してくれないかなあ、というのが訳者の切なる思い。
さて、本作。これまでのシリーズ作品でマイロンといろいろ因縁の合った人物が勢ぞろいし、彼らの過去と現在が語られる。昔からのマイロン・ファンにはたまらない読みどころだろう。だからと言って、本作で初めてマイロンに出会われた読者の興を殺ぐようなところはまったくない。ベテラン読者も初心者読者も等しく愉しめる第一級のエンタメに仕上げらえれている。そのあたり、名手コーベンにぬかりはない、言うまでもないけれど。
物語はライトモチーフのように繰り返される「おまえ」の謎めいた独白のプロローグのあと、マイロンのオフィスにFBIの捜査官が訪ねてくるところから始まる。マイロンと縁浅からぬ人物にかけられた殺人容疑の捜査だ。ここでまず最初の大きな謎がどかんと示される。その容疑者はなんと2年まえに死んでおり、マイロンはその葬儀に参列さえしているのだ。いったいどういうことなのか?
こうした魅力的な謎がこのあとも次々と飛び出し、その謎を頭も足も使って〝正当に〟調査するマイロンとウィンの活躍が描かれるわけだが、語りの巧さ、プロットの巧みさ、文章の疾走感、三拍子そろったコーベン謹製ジェットコースター・ライドを思う存分お愉しみいただきたい。加えて会話の妙。マイロンとウィン(マイロンと両親も可)のやりとりに一度でもくすりとしない読者など絶対ひとりもいないはず。これは訳者として断言しておきたい。そして、物語の掉尾を飾るウィンのさりげない所作には、どうか思いっきり涙していただきたい。
田口俊樹(たぐち・としき)
早稲田大学文学部英文科卒。英米文学翻訳家。最近の訳書にH・コーベン『捜索者の血』、L・ブロック『マット・スカダー わが探偵人生』、D・ウィンズロウ『クライム101』、D・ハメット『マルタの鷹』(新訳)、R・デミング『私立探偵マニー・ムーン』等。著書に『日々翻訳ざんげ エンタメ翻訳この四十年』がある。






