【村上春樹クイズ】こんなとき春樹ならなんて言う？
ロマンティックであると同時に、ちょっぴりユーモラスな台詞を、日常会話のなかで使いこなせる“シティ・ボーイ”が多い村上春樹の作品。シティ・ボーイであるキャラクターの会話をもとにしたクイズに答えて、あなたも“春樹的”な立ち振る舞いを学んでみましょう。
シティ・ボーイになりたい――。そう考えたことはありませんか？
シティ・ボーイとは、都会に住む男性のことではありません。映画のようにロマンティックな、それでいてちょっぴりユーモラスな台詞を、さも当然のように日常会話のなかで使いこなせる男性のことです。
そんなシティ・ボーイの代表格と言えば、なんと言っても村上春樹作品に登場するキャラクターでしょう。次の会話をお読みください。
「ねえワタナベ君、私のこと好き？」
「もちろん」と僕は答えた。
「じゃあ私のお願いをふたつ聞いてくれる？」
「みっつ聞くよ」――『ノルウェイの森』より
これは、『ノルウェイの森』のなかで主人公・ワタナベがガールフレンドに向かって言う台詞です。お願いをふたつ聞いて、という可愛らしいわがままに対し、「みっつ聞くよ」とさらりと返してしまう余裕のある振る舞い。シティ・ボーイになりたいと思ったら、このシーンで少しでもためらったり、「ふたつも？」と難色を示すのではなく、即座に「みっつ聞くよ」と答えられなくてはなりません。
今回は、そんなシティ・ボーイである村上作品のキャラクターの会話から、村上春樹的振る舞いのイロハが分かる台詞をクイズにしました。あなたも村上作品の登場人物になったつもりで、“春樹的”に回答してみてください。
それでは、早速クイズに移りましょう！
【第1問】
あなたは、密かに好意を寄せている女の子に「私ってどのくらい可愛い？」と聞かれました。彼女にどう返せばよいでしょうか？
A.「広い野原に雨が優しくふっているくらい」
B.「山が崩れて海が干上がるくらい」
C.「春の熊くらい」
D.「ちょっとよくわからないな」
「山が崩れて海が干上がるくらい」
【解説】
村上春樹作品のなかでも人気の高い長編小説、『ノルウェイの森』のワンシーンです。主人公・ワタナベには、直子という大切な女性がいながらも、自分に好意を寄せているガールフレンド、緑にも心惹かれています。
「山が崩れて海が干上がるくらい可愛い」は、緑に「すごく可愛いよ」と伝えたワタナベが、「すごくってどのくらい？」と聞かれて答えたひと言。緑はこの台詞に対し、「あなたって表現がユニークねえ」と感心し、ますますワタナベのことが気になってしまいます。
Aの「広い野原に雨がやさしく降っている」というフレーズは、同作品のなかで登場人物がビートルズの「ミッシェル」を評して言ったひと言。Cの「春の熊くらい」は、緑に「（私のこと）どれくらい好き？」と聞かれたワタナベが「春の熊くらい好きだよ」と返したシーンでのひと言です。
【第2問】
あなたは付き合っていないガールフレンドをホテルに誘い、断られてしまいました。「また近いうちに誘っていいかな？」と聞くあなたに対し、「デートに？ それともホテルに？」と皮肉っぽく尋ねるガールフレンド。あなたはこんなとき、なんと返せばよいでしょうか？
A.「もちろんデートにだよ」
B.「もちろんホテルにだよ」
C.「両方」
D.「結婚式にだよ。秋だからまだリスも熊も呼べる」
「両方」
【解説】
このシンプルなひと言は、短編小説『ファミリー・アフェア』のなかの台詞です。一見いやらしい答えのようにも思えますが、プレイボーイの主人公はあくまで爽やかに「両方」と言い放ちます。そして、こう続けるのです。
「そういうのは、ほら、表裏一体なんだ。歯ブラシと歯みがきみたいに」
（『ファミリー・アフェア』より）
当然のように「両方」と言われたガールフレンドは、怒ることも忘れ「そうね、考えとくわ」と答えます。
Dの「まだリスも熊も呼べる」は、同作品のなかで妹の結婚式が秋の予定だと聞いたのを受け、主人公が冗談めかして言うひと言です。
【第3問】
女の子に「私には得意なことが何もないわ」と言われたあなた。彼女を傷つけず、さりげなく慰めるにはなんと言えばいいでしょうか？
A.「失くさずにすむ」
B.「人はどんなことからでも努力さえすれば何かを学べる」
C.「僕だってそうさ」
D.「得意なこと？ 僕だってマスターベーションくらいだよ」
「失くさずにすむ」
【解説】
長編小説『1973年のピンボール』のなかのワンシーンです。女の子に「ピンボールをやりに行く」と伝えた主人公は、彼女にこう尋ねられます。
「ピンボールは上手いの？」
「以前はね。僕が誇りを持てる唯一の分野だった」
「私には何もないわ」
「私には何もない」と自分を卑下する彼女。ここですかさず主人公は、「失くさずにすむ」と答えるのです。
『1973年のピンボール』のなかで、主人公は「他人の話を熱心に聞く世界コンクール」があったらチャンピオンに選ばれていたと自負しているほど、“聞き上手”な人物として描かれています。相手の言葉に常に耳を傾け、ここぞというときに女性の心をグッと掴むようなひと言を言える主人公は、村上作品に登場するシティ・ボーイを代表するような人物と言えるでしょう。
Bの（一見、村上作品らしくない）台詞は、同作品の登場人物であるジェイがバーで会った男に向けて言うひと言です。
【第4問】
あなたは、「紳士とはどんな人のことだろう？」と聞かれました。こんなとき、どう返せばよいでしょうか？ 空欄を埋めてください。
――「紳士とは、○○と○○について多くを語らない人のこと」
「紳士とは、払った税金と寝た女性について多くを語らない人のこと」
【解説】
これは、短編集『女のいない男たち』のなかの1篇、「独立器官」でという医師が語るひと言です。
渡会は主人公がジムで親しくなった男で、美容整形外科を営む52歳。整った顔立ちで話を聞くのも語るのもうまく、恐ろしいほどに女性にモテる、まさに“紳士”の代表のような人物です。渡会は彼の言う“紳士”の定義の通り、金持ちでありながらお金の話はせず、多数の女性とベットを共にしながらも、それを自慢するようなことは一切しません。
シティ・ボーイを飛び越え、そろそろ“紳士”を目指したいという男性は、渡会のスマートな振る舞いを参考にしてみるといいかもしれません（ただし、彼は物語のなかでとても“紳士”とは思えない、驚くような亡くなり方をしますが……）。
【第5問】
村上春樹作品の登場人物になったつもりで、次の言葉の空欄を埋めてください。
――「強い人間なんてどこにも居やしない。○○○○○○が居るだけさ」
答え：
「強い人間なんてどこにも居やしない。強い振りのできる人間が居るだけさ」
【解説】
これは、デビュー作『風の歌を聴け』のなかで、バーで酒を飲みながら主人公の「僕」が語るひと言です。
女の子をすぐに口説き、事あるごとに歯の浮くような台詞を言う村上作品の主人公ですが、それは自分に強い自信があるからではなく、“強い振り”をしているからに他なりません。そう考えると、キザでちょっぴり鼻につくキャラクターにも、思わず共感してしまうのではないでしょうか？
「こんなとき春樹ならなんて言う？」クイズ、あなたは何問正解できましたか？ 正答数に応じて、おすすめの村上春樹作品をご紹介します。
【0～1問正解】
おすすめ作品：『風の歌を聴け』
出典：http://amzn.asia/gAtg5dJ
おそらく村上春樹作品にほとんど触れたことのないあなた。もしかすると、村上作品を食わず嫌いしているのかもしれません。
初期の村上作品は、キザな台詞のオンパレード。まずはデビュー作『風の歌を聴け』を手にとって、シティ・ボーイへの第一歩を踏み出してみては？
【2～3問正解】
おすすめ作品：『女のいない男たち』
出典：http://amzn.asia/bdEF6GR
有名な村上作品はすでに読んでいるか、“春樹的”振る舞いはなんとなく分かっているあなた。さらに洗練された振る舞いを身につけるためには、『女のいない男たち』がおすすめです。
クイズにも登場した紳士・渡会医師が登場する「独立器官」を始め、男と女という関係の難しさ、奥深さが分かる名作揃いの短編集です。
【4～5問正解】
おすすめ作品：『恋しくて』（村上春樹訳）
出典：http://amzn.asia/hFPhub3
おめでとうございます！ あなたは非の打ち所のないシティ・ボーイ。あなたがバーで飲んでいればどこからか双子の女の子が寄ってきて、感じよく家に誘ってくることでしょう。きっと村上作品は読破しているあなたにさらにおすすめしたいのは、村上春樹が翻訳した恋愛小説の短編集『恋しくて』。若い男女の甘酸っぱい恋愛を描いた作品から切なくも重みのある作品まで、美しい10篇の恋愛小説が味わい深い村上訳で楽しめる、珠玉の作品集です。
ただオシャレなだけでなく、人生の節々でふと思い出すような深みのある村上春樹作品の台詞。村上春樹がお好きな方も、「もうしばらく春樹作品は読んでない……」という方も、“会話”に着目して作品を読み返してみてはいかがでしょうか？
（合わせて読みたい：
【村上春樹etc】もしもあの大作家が「お祈りメール」を書いたら
ハルキストが村上春樹風にデートプランを考えたら【文体模写】
文体模写にコツってあるの？ 「もしそば」の著者に実演してもらった）
初出：P+D MAGAZINE（2018/03/07）
関連記事
