出口治明の「死ぬまで勉強」 第4回 世界に取り残された日本
世界の大学ランキングを見ると、日本の大学でベスト100に入っているところは、東京大学と京都大学くらいのもの。一方で中国などアジアの大学が順位を上げている。これを引き上げるには、APUのように秋入学を導入すればいい。
■世界大学ランキングは寂しい結果に
ニュースなどで取り上げられることが多いので、知っている方も多いでしょうが、世界の大学ランキングを整理しておきましょう。大学ランキングにはいろいろな種類があり、それぞれ評価ポイントが異なるため結果は一様ではありませんが、共通して言えることは日本の大学でベスト100に入っているところは、東京大学と京都大学くらいだということです。
たとえば連合王国のタイムズ誌が公表している「THE世界大学ランキング2018」(Times Higher Education World University Rankings 2018)では、以下のような結果でした。
1位:オックスフォード大学(連合王国)
2位:ケンブリッジ大学(連合王国)
3位:カリフォルニア工科大学(アメリカ)
3位:スタンフォード大学(アメリカ)
5位:マサチューセッツ工科大学(アメリカ)
6位:ハーバード大学(アメリカ)
7位:プリンストン大学(アメリカ)
8位:インペリアル・カレッジ・ロンドン(連合王国)
9位:シカゴ大学(アメリカ)
10位:スイス連邦工科大学チューリヒ校(スイス)
10位:ペンシルバニア大学(アメリカ)
〜中略〜
22位:シンガポール国立大学(シンガポール/アジア1位)
27位:北京大学(中国)
30位:清華大学(中国)
40位:香港大学(香港)
44位:香港科技大学(香港)
46位:東京大学
74位:京都大学
なお、「THE世界大学ランキング日本版2018」によると、僕の働いているAPUは私立大学第5位、西日本では1位につけています。上位にいるのは、慶應義塾大学、早稲田大学、上智大学、国際基督教大学(ICU)の4校です。
アメリカのニューズウィーク誌が公表している「U.S.News Best Global Universities 2018」では、日本でトップ100に入っているのは東京大学だけ。京都大学は114位という結果になっています。その東京大学も、シンガポール国立大学、南洋理工大学というシンガポールの2大学の後塵を拝しました。
日本の大学の国際的なランキングを上げていくことが喫緊の課題であることはいうまでもありません。大学の論文数や研究力は、新しい技術開発や理論の構築に直結し、発信力の強化にも繋がります。「国際性」など、ある分野で定評のある大学があれば、そこに内外から学生や教員が集まってきて、ダイバーシティ(多様性)や活力が生まれるでしょう。
心配なのは、文部科学省が教育にかける予算を、毎年1%ずつ減らしていることですが、これは一朝一夕に解決できる問題ではないので、のちの回で触れることにしましょう。それとは別に、比較的すぐに取り組むことができると思われるのが、「秋入学」の導入です。
APUには約6000人が在学しており、そのうちの半数、3000人ほどが国際学生です。なぜここまで国際学生の比率が高いかというと、秋入学を導入しているからです。
日本は明治以降、会計年度に合わせて「4月入学」を採用してきました。しかし、世界の主流は「9月入学」です。アメリカ、カナダ、連合王国、フランス、ロシア、中国などが採用しており、このために中国からアメリカ、カナダから連合王国などへの留学がスムーズにできるのです。
日本でも一時期、「秋入学を導入しよう」という動きが広がったことがありましたが、現在は本格的に議論されているとは思いません。しかし、考えてみてください。外国人にとって日本への留学は、日本語というバリアがあり、しかも入学時期が違うので、かなりハンディがあるといわざるをえません。
実際、ユネスコのデータによると、1998年には対象132ヵ国中4位だった外国人留学生数が、2015年は8位。9位の中国が猛然と追い上げているので、早晩順位は入れ替わることでしょう。経済規模(名目GDP)では世界第3位の経済大国である日本が、この位置にいるというのはとても残念です。
■経済は一流、政治は三流の嘘
APUの場合は、春入学は日本の学生、秋入学は国際学生が中心で、日本語と英語のそれぞれで入学試験を実施し、年に2回入学できるシステムを構築しています。また、教育も日・英2ヵ国語で行っているので、そこに魅力を感じてくれているようです。
教育予算をすぐに増額することは不可能ですが、「秋入学を導入する」のは大学の仕組みの問題なので、実現するハードルはさほど高くはありません。
文部科学省が、「秋入学を実施しない場合は大学の予算を減らします」と宣言すれば、各大学は一斉に秋入学を導入すると思います。そのようなグランドデザインに基づく判断をするリーダーシップが、日本の政府や企業、大学も含めて欠けているのではないでしょうか。
でも、それは日本人の資質の問題ではありません。「船頭多くして船山にのぼる」のたとえのとおり、日本人が全員、グランドデザインを持つ必要はないのです。そうではなく、常にそういうリーダーを産み出す仕組みを構築することが重要なのです。
ただ、世界の産業構造や社会構造が大きく変わったこの四半世紀のあいだに、わが国がいつまでも高度成長期の成功体験から抜け出せず、新しいグランドデザインを描けなかったが故に、アメリカ、欧州、日本という先進3地域のなかで、日本の経済成長率がいちばん低くなってしまいました。
高度成長時代、「日本の経済は一流、政治は三流」という人がいましたが、世界の歴史を見ていると、経済だけが一流で、政治が三流などということはありえません。どちらも一流か、ともに三流かしかありえないと僕は思います。だからこそ、グランドデザインを描けるリーダーを育てていかなければならないのです。
プロフィール
出口治明 (でぐち・はるあき)
1948年、三重県美杉村(現・津市)生まれ。 京都大学法学部を卒業後、1972年日本生命保険相互会社に入社。企画部などで経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任したのち、同社を退職。 2008年ライフネット生命保険株式会社を開業、代表取締役社長に就任。2013年に同社代表取締役会長となったのち退任(2017年)。 この間、東京大学総長室アドバイザー(2005年)、早稲田大学大学院講師(2007年)、慶應義塾大学講師(2010年)を務める。 2018年1月、日本初の国際公慕により立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任。 著書に、『生命保険入門』(岩波書店)、『直球勝負の会社』(ダイヤモンド社)、『仕事に効く 教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『世界史の10人』(文藝春秋)、『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)、『本物の思考力』(小学館)、『働き方の教科書』『全世界史 上・下』(新潮社)、『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇』(文藝春秋)などがある。
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初出:P+D MAGAZINE(2018/08/10)