文学的「今日は何の日?」【3/16~3/22】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
3月16日から始まる1週間を見てみましょう。

3月16日

光源氏の一人娘、明石の姫君が生まれる

世界で最も古い長編小説のひとつとして、時代と国境を越えて愛される『源氏物語』。その第十四帖澪標(みおつくし)において、光源氏と明石の御方の間に明石の姫君が誕生するのが3月16日です。光源氏の正妻格である紫の上に引き取られて養育を受け、美しく、優しく、聡明な姫に育ちます。やがて東宮妃として入内し、世継ぎの御子を産んで国母となるのでした。こうして、光源氏が受けた「御子は三人、帝、后がかならず揃ってご誕生になるでしょう。そのお二人には劣る運命の御子も、太政大臣となって人臣の位を極めるでしょう」(角田光代訳)という宿曜(すくよう)の占いが、ひとつひとつ現実のものとなっていくのです。

20200316
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/430972874X/

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3月17日

頭獅(ずし)(おう)、母、姉アンジュとともに奥州から京へと向かう

芥川賞作家にして、大衆小説の山本周五郎賞も受賞した吉田修一が新境地を開いたといわれる『アンジュと頭獅王』。作中で父の赦免を得ようと、頭獅王たちが出発するのが3月17日です。古典の名作『山椒大夫』を下敷きとして、母、姉アンジュとともに奥州を発った頭獅王が、千年の時を越えて平安時代の丹後の国から現代の東京・内藤新宿へ飛び、さらには作品の枠さえ越えて『源氏物語』の世界に入りこみ、生き変わり死に変わり、慈悲の心の尊さを問います。ヒグチユウコの装画も美しく、不思議な魅力でいっぱいの作品です。

20200317
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09386550

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3月18日

横溝正史『女王蜂』のヒロイン大道寺智子の義父・欣造が生まれる

名探偵・金田一耕助の生みの親として知られる横溝正史。その代表作のひとつである『女王蜂』において明治43年のこの日、大道寺欣造(旧姓速水)が誕生しています。5つの会社の社長や重役をかねる欣造は、東京帝国大学の学生時代に友人・日下部とともに月琴島を訪れました。島の旧家の令嬢・琴絵は日下部と契り、妊娠。その後、事故死した日下部に代わって欣造が琴絵の夫となり、智子が生まれます。その智子が18歳を迎える直前になって、欣造のもとに「あの娘のまえには多くの男の血が流されるであろう」と警告の手紙が……。複雑に入り組んだ縁のもつれを、金田一耕助は解き明かすことができるのでしょうか?

20200318
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3月19日

酒に酔った郁子が入浴中に気絶、木村に介抱される

谷崎潤一郎晩年の傑作のひとつ『鍵』は、嫉妬によって性的興奮を得るため、年下の妻・郁子に対し、一線を越えない限界まで若い男・木村を接近させる初老の大学教授を描く、異色の作品です。夫婦がそれぞれつけている日記を交互に示すという手法で、互いの思惑、感情を赤裸々に描き、性の深奥に迫りました。3月19日には、酔いつぶれて風呂場で気を失った全裸の郁子を、木村が介抱するという出来事が起きています。払暁まで一睡もできないほどの嫉妬に苛まれる夫、着物を脱いだところまでしか記憶がないという妻。夫はさらなる性的興奮を得ようと不摂生を続け、次第に健康を損なっていくのですが……。

20200319
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/410100515X/

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3月20日

マルチな才能を発揮したヴィアンの恋愛小説『日々の泡』が刊行される

39年の短い生涯において、小説家、ジャズ・トランペット奏者、シャンソン歌手、作曲家など幅広く活躍し、今なおカリスマ的人気を誇るボリス・ヴィアン。その代表作『日々の泡』は、1947年3月20日に刊行されました。肺に睡蓮の花が咲く奇病に冒された美しいクロエと、彼女を愛する夫コラン。働く必要がないほどの資産家であったコランは、クロエの治療のために財産を使い果たし、嫌っていたはずの労働で金を稼ぎ看病しますが、クロエは次第に弱っていきます。『ムード・インディゴ うたかたの日々』のタイトルで映画化もされ、人気となりました。美しく痛切な、時代を越えて愛される作品です。

20200320
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4102148116/

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3月21日

芥川龍之介、上海行きの船が時化(しけ)て船酔いに悩まされる

1921年3月21日午後、大阪毎日新聞社海外視察員として、芥川龍之介が中国に向けて門司で筑後丸に乗り込みました。このときの紀行文『上海游記』に、日本画家の長野草風が東京を発つ前の芥川を訪ね、船酔いの妙薬を紹介したことが書かれています。上海までは門司からわずか2昼夜。そのために薬の用意は臆病と考えた芥川はそのまま乗船しますが、船が玄界灘に出ると同時に海は荒れ、「長野草風氏が船酔いの薬を用意したのは、賢明な処置だと感服」するはめになりました。ドイツの作曲家リヒャルト・ワグナーが渡英したときも海が荒れ、その経験がのちに『さまよえるオランダ人』を書く際に役立った――という逸話で自分を慰めるなどしています。

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3月22日

異変が続く日本列島に、ついに決定的な沈没の徴候が……!

小松左京が9年がかりで完成させた、空前のベストセラーノベル『日本沈没』。197X年夏、地球物理学者の田所雄介は、小笠原北方の島の沈没や伊豆天城山の噴火などの異変を調査するうち、日本列島沈没の可能性に気づきます。政府は極秘裏に日本人の海外移住、資産保全計画を進めますが、3月22日、西日本と東日本が、フォッサ・マグナを境に1日に数ミリの速度でずれはじめ、徐々に加速しつつあることが判明。ついに政府は国民に1年以内に日本が沈没すると発表するのです。上下巻あわせて約400万部を売り上げ、映画、テレビドラマ、ラジオドラマなどにもなった、日本SF界伝説の名作です。

20200322
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09408065

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初出:P+D MAGAZINE(2020/03/16)

HKT48田島芽瑠の「読メル幸せ」第23回
◎編集者コラム◎ 『死ぬがよく候〈五〉 雲』坂岡 真