官能小説家になろう!ぼくのかんがえたさいきょうのベッドシーンを添削してください【後編】
太田さん(43)の考えた最強のベッドシーン
太田:エロい妄想を糧に生きてきました。今日は、「初恋」をテーマに、青春時代に立ち返ったようなベッドシーンを書いてきましたので、ご笑覧ください。
20年ぶりの同窓会で会った亜希。初恋の彼女とホテルへ入ることになるとは。実らなかった初恋。それが20年目に実るのだ。 仰向けに横たわる僕の傍らにうずくまり、反り返った僕の分身を亜希は手にした。 20年前、清純な彼女のブレザーの襟首から見えていた白いうなじ。それを今、僕に見せつけつつ、彼女は僕のビッグモンスターを口に含んだ。舌先が、肉地蔵を舐めまわし吸い上げる。時折、細い指を巧みに動かしつつ。 その動きに僕は我慢できずに言う。「亜希のローストビーフを味わいたい」。 男子高校生と違い、慣れた手つきで彼女を裸にする。女子高生と異なり、崩れつつあるが柔らかな双球を両手と口で僕は弄ぶ。 だが、男子高校生の頃と同じく僕は我慢できなかった。早速、亜紀の秘密の花園へと手を伸ばし、指で柔肉をくつろげる。 「すごい、ローストビーフが火照って、中からおいしそうなスープが溢れ出てる」 「嗚呼、ああああ、うううう、ハアハア、そこよ、ああっ」 忘我の声を耳にした僕は、亜希の神秘の洞窟の最奧部へと、僕の蛇神様をさし入れた。待ち構えていたかのようにアプリコットを締め上げる洞窟。白目を剥いて呻きを上げる亜希。 この瞬間が永遠に続いてほしい。そう願いながら至上の愉悦に僕らは達したのだった。 |
松村先生:官能のイロハの「イ」は押さえていると思います。特に、「肉地蔵」だったり、「蛇神様」だったりといった漢字の使い方からは、さすが40代というだけあって、フランス書院さんなどから出ている官能小説に慣れ親しんでいる感じが出ていますね。
太田:おお、ありがたきお褒めのお言葉。高校時代に読みふけっていた官能小説を思い出しながら書きました。
松村先生:官能小説の作家にとって、「造語力」というのは腕の見せどころのひとつです。例えば、「陰裂」だとか、「肉洞」だとか。官能小説家は、およそ漢和辞典には載っていないような呼称を発明し、使いこなす技術に長けていますから。そういった意味では「正解」に近いですのですが……「ローストビーフ」はちょっと……ね。
太田:肉食系のエロスを喩えに込めてみました。
松村先生:うん、まあ、やりたいことは分かります。例えば「ざくろ」や「肉饅頭」など、モノを食べ物に喩えること自体はアリです。ただ、その場合も、見た目にも淫らな印象だったり、溢れだす肉汁の感じだったりと、しっかりと食べ物の特徴を活かさないと意味がないです。
「ローストビーフ」なら、「内側の赤味」と「外側のちょっと茶色くなっている部分」の色の境目に注目すると、一気に生々しくなったと思いますよ。
太田:なるほど〜。つまり、色や形のリアリティーに欠けていた、ということですね。
松村先生:ていうか、そもそもローストビーフは火照らないですよね。
犬:「ダイヤモンドは砕けない」みたいな名言きたこれ。
松村先生:他にもモノをめぐる呼称に若干の苦しさがあります。例えば、自分のモノを指し示す言葉が「ビッグモンスター」だと、どうしてもコミカルになってしまうので、これはNG。自分を大きく見せず、普通のサイズであることを強調したほうが、かえって効果的ですよ?
オオウエ:太田さん、年甲斐もなく見栄っ張りですもんね。
太田:小チン者の強がりです、すみません……。
松村先生:あとこれは、全員に言えることなのですが、「イった感」がないというのが物足りないところです。例えばこの喘ぎ声。
「嗚呼、ああああ、うううう、ハアハア、そこよ、ああっ」 […] この瞬間が永遠に続いてほしい。そう願いながら至上の愉悦に僕らは達したのだった。 |
「そこよ、ああっ」は「そこじゃない、いやっ」に変更したいですね。順序としては、「抵抗」を示した上で、その先に「絶頂」を描くべきだったかな、と。
それから、「イった感」ということで言えば、最後の一文も惜しいですね。ここはクライマックスなので、やっぱり「白濁したもの」を見せて締めくくりたいところです。
太田:そこは盲点でした! 灯台下暗し!
松村先生:快楽の表現として「至上の愉悦」という言葉があるのはわかるのですが、効果としては不十分ですね。「僕はみるみるうちに快楽の渦へと投げ込まれ、最後の一滴まで絞りとられたのだった」というのはどうでしょう?
太田:なるほど〜。非常に参考になります。では、自分の書いたベッドシーンですが、松村先生の最終評価はいかほどのものでしょうか?
松村先生:漢字を使ったり、食べ物に見立てたり、という挑戦はいいですね。惜しいことに、成功はしていないのですが(笑)あと、「初恋の相手と再会する」という設定も、狙いはいいです。
官能小説として成立させるためには、エクスタシーの感覚がもっと仔細に書き込まれていると良かったかな、と思います。
語彙力:★★☆☆☆ 設定 :★★★☆☆ 絶頂感:★☆☆☆☆ |
太田:絶頂感、もっと磨きます!
犬:(その年齢で磨くスキルではないと思う……)
企画を振り返って
太田:こうやってプロの方から具体的にフィードバックをいただく機会は滅多にないことなので、非常に勉強になりました。やはり、プロのお眼鏡にかなうベッドシーンは、一朝一夕では書けないものですね。
松村先生:官能小説、とりわけベッドシーンは、想像以上に難しくって、書けるようで書けないものです。「文章を通じて読み手をその気にさせる」という目的を果たすためには、「自分の妄想」を「読者の仮想体験」へと翻訳しなくてはいけない。そして、そのためにはやはり、文学的な才能が必要になるんですね。
あの団鬼六先生も、デビュー当時には『大穴』という経済小説でオール讀物新人賞を取っています。エロだけでなく、エンターテイメントとして評価される文章力と構成力を持っている人だったんです。このことからも分かる通り、官能小説家として成功するためには、官能小説以外の作品も読み込んでいないと、なかなかその素質は得られないのだと思います。
犬:我々も精進せねば、ですね。
オオウエ:もっと、いろんなジャンルの本を読まないといけないな、と思いました。
松村先生:すみません、今日は色々と生意気なことを言いましたが、何らかのお役に立てていれば幸いです(笑)
犬:いえいえ、松村先生は我々にとっての新たな憧れになったと思います。今日は本当にありがとうございました!!
〜完〜
初出:P+D MAGAZINE(2016/10/23)
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